毒ヘビ全書

日本語の「毒」は英語に訳する場合は三種類ある。一つ目は”poison”。消化器や皮膚から受動的に吸収されるタイプの毒を指す。フグの毒や青酸カリはこのグループに入る。二つ目は”venom”。牙や針から能動的に注入されて効果を現わす毒を指す。三つ目は”toxin”。毒そのものの成分である毒素を指す。毒物学(Toxicology)などに使用する表現である。なので、例えば一般的な毒ガエル(ヤドクガエルやヒキガエル)には”poisonous”を使う。”venomous”なのも居るかもしれないが。そしてヘビには”venomous”を使用する。勿論例外的に”poisonous”や”non venomous”なのも居る。後者は所謂普通のヘビである。

ヘビの分類はヘビ亜目の下にメクラヘビ上科、ムカシヘビ上科 (ボア・ニシキヘビ)、ナミヘビ上科と分かれ、さらにナミヘビ上科はクサリヘビ科、コブラ科やナミヘビ科など11科に分かれる。現在毒ヘビは毒牙の形態から3グループ、すなわち管牙類、前牙類、後牙類に分類され、それぞれは先に挙げた3科下の毒ヘビが対応する。ここから其々の毒牙形態は3科またはその祖先で個別に獲得された形質のように考えられるが、これらの3つのグループには毒牙と毒腺、毒を押し出すための筋肉からなる「毒液注入システム」という大きな共通点があり、このシステムの起源を巡って面白い仮説が有る。

オーストラリアの毒ヘビ研究者Bryan Fryらは遺伝子発現データの解析から、ヘビ亜目はイグアナ下目およびオオトカゲ下目からなる”Anguimorph”に最も近縁であることを発見した。因みに数少ない”venomous”トカゲであるドクトカゲ科やコモドオオトカゲはオオトカゲ下目に入る。またイグアナ下目のヒガシアゴヒゲトカゲにも痕跡的な毒液分泌管が有る。この発見によりFryらはヘビ亜目と”Anguimorph”の共通祖先に於いて毒液システムが一度だけ獲得されたのち、有毒種ではそれが保持され、それ以外の種では失われたという仮説を立て、この共通祖先を”Toxicofera (有毒類)”と命名した。この仮説はToxicofera仮説と呼ばれる。

ヘビは極地を除く世界中に約3000種が生息すると言われるが、毒ヘビはその内約25%に上る。上の仮説が正しいとすれば、トカゲの種の殆どで毒システムを失う一方でヘビのこれだけ多くの種で保持されている事実が興味深い。毒システムの(再)獲得が容易くないのは、分類上で広く分布していないのを見ればわかる。システム維持のコストも、具体的に見当がつかないが、恐らく高い。現生するAnguimorphの多くは比較的に大型種なので、大型化に比するだけのコストであろうか。ボア・ニシキヘビや他の非毒ヘビも多くは大型種である。

これだけ書けば明らかなように、毒ヘビの多くは小型種である。キングコブラやブラックマンバなど4mを超える例外種も居るものの、ほとんどの種は1mにも満たない。平均(種内)の平均(種間)を取れば5,60cm程度なのではないだろうか。本書はそんな毒ヘビたちの美しい写真と詳しい解説が載せられる素晴らしい本 (事典) なのである。毒ヘビ種の毒は必ずしもヒトに有害とは限らず、その種が捕食する獲物に対してのみ効果が有るものもある。本書で取り上げられる種はヒトにとって「中程度」以上に危険な種に限られる。とは断り書きに有ったが、例外的にムカデを専門に捕食する種も載せられており、そのサイズが何とも可愛い30㎝。ペットとして流通する種にこのサイズで成長が止まるヘビは(殆ど?)いない。一般的なヘビは意外に大型なのである。

何とも美しくて格好良い種が多いのも毒ヘビの魅力である。どれほど素敵かというと、普通に飼育できる種のヘビが凡庸に見える位に。本書に挙がる種の殆どは恐らく特定動物に指定されると思われるので、ヘビ飼育愛好者でかっこいいヘビを求める向きは見ない方が良いかもしれない。一つ断っておくと、ペットヘビ界のアイドル、セイブシシバナヘビも噛まれると少し腫れる程度の微毒と人を魅了するタイプの劇毒を合わせ持つのだが、本書では取り扱われない。こいつもやはり、流通する中では小型種なのであった。

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