クラシック音楽を10倍楽しむ 魔境のオーケストラ入門

軽い読み物の紹介が続く。僕はクラシック音楽が好きで、好きな音色の楽器が活躍する曲を集中して聞く傾向にある。4,5年ほど前からは弦楽器が特に気に入っており、バイオリン協奏曲や弦楽四重奏曲の良さそうな演奏を探しては聴いている。擦弦楽器に特有の、体の表面を色んな触感の布が擦り抜けていく感じの音が気持ち良い(話がそれるが、ピアノの音は硬質の玉が当たる感じがして、これはこれで気持ちいい)。好きになる曲も多く、シベリウスのバイオリン協奏曲などは痺れるくらい格好良い。が、あまりに繰り返して聴いたために僕の中で陳腐化してしまった。一つ断っておくと、僕はクラシックに詳しいわけでは決してなく、気に入ったものを何度も、演奏家も色々変えて聴いているだけである。知識と(鑑賞の側の)レパートリーは乏しい。

もちろん音楽家の書いたものにも目がなく、古くはシューマンの『音楽と音楽家』等が興味深い。ここに紹介するのは現代の演奏家による、とても気軽なエッセイである。表題の本はNHK交響楽団第一ヴァイオリンを務める現役音楽家による、自身の音楽経歴と楽団内の小ネタが披露される。演奏家によって書かれた本は幾つか有り、その多くは自身の経験に基づくエッセイという点で共通していて、本書は他と比べてそれほど目新しいものでは無い。だが一般人とは異なる特殊な人生を歩んできた彼らの体験談は何度読んでも面白い。著者はヴァイオリニストなので子供の時期からヴァイオリン中心の生活を送ってきたのだが、開始年齢は6歳と意外と遅い。同じ弦楽器でもコントラバスなどは高校から始めてプロになったと言う話も聞くが、ヴァイオリンではプロのレベルで使いこなせるようになるかどうかのギリギリの年齢であるらしい。そして音楽高校に最下位で合格するなど色々有りながらすんなりと東京芸大に入り、オーケストラに入団するあたりは、著者は決してそうは書かないが、才能も持っていたのだろうと思う。断っておくと、ここで言う才能とは遺伝による何かのことではない。

音楽家による書きもので気に入っているものを二つ挙げる。一つ目はヴィオラ奏者による自伝。ヴィオラはテクニックの無い、或いは衰えたヴァイオリニストが手にする楽器では決してない。ヴィオラのちょっと鼻にかかったような魅力的な音はヴァイオリンと同じように引いていては出せない。著者はヴィオラの音に惚れ、若い頃にヴァイオリンからヴィオラに転向し、この楽器一筋に取り組んできた。ヴィオラの認知、地位向上に務める世界的な第一人者である。「人がまだ踏んだことのない雪道を行きたい」と言う言葉が印象深い。ベルリン・フィルの前首席指揮者であるサイモン・ラトルはかつて、「ビオラ抜きにオーケストラは成り立たない。ワインに例えれば、ヴァイオリンがラベルで、チェロがボトル、そして、ヴィオラが肝心の中身」と言ったそうな。

もう一つは現在も活躍しているピアニスト、イリーナ・メジューエワによる、ピアノ名曲の解説。ピアノが引けるかある程度音楽の基礎がないと理解できない内容が多く、正直に言えば僕には難しい。単なる個人の印象で済ませず、楽譜も取り入れて作曲家のメッセージを読み解き、名ピアニスト達の解釈も紹介する。非常に読み応えのある内容であり、ぜひとも続きを書いて貰いたい一冊である。各曲ごとに彼女推奨のCDが挙げられる。

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