地上最強の男:世界ヘビー級チャンピオン列伝

ある作家の作品が広く流行する理由は幾つもあるが、共通するのは文章の読み易さである。必要条件と言っても良い。ハリーポッターシリーズがあれ程の人気を博したのは文章の平明さにある。文章が簡潔で絵に思い浮かべるのが容易である。次に来る展開も想像しやすく、それが外れた時にちょっとしたアクセントとなる (日本語翻訳の出来がどうだったかは知らない)。因みに読みやすい文章とは話し言葉で書かれたもののことではない。文の繋がりがわかり易く言葉の選択が巧な文章のことである。内容を問わずそんな本は気軽に手にとって気負わずに読み進めることができる。だたしそんな本ばかり読んでいたら難しい本が読めなくなるので注意が必要だ。

本書もそう言った意味で負荷のかからない読書をしたい時に最適である。著者の作品を特に追いかけているわけでは無いが、僕がこれまで読んだ『永遠の0』『BOX!』『玄庵』はどれも感心するくらい読み易く、面白い娯楽小説であった。本書はノンフィクションであるが、読み易さは健在だった。

中身に関して、書きたいことはそれ程無い。19世紀後半のベアナックル時代のチャンピオン、ジョン・サリバンからモハメド・アリまで26人の歴代ヘビー級チャンピオンの経歴を一人ずつ紹介したものである。同時にアメリカで黒人選手が人種差別と戦ってきた歴史でもある。話のテンポはいいものの、それほど長くは無いページ数に26人を詰め込んでいるので、それぞれが少し物足りなく感じた。全体を通して単調ながら、何となく一気読みもできる、そんな本であった。ボクシングや世界最強に興味がない人は途中で投げ出しかねない。

同様のスポーツ小話集として、『ツール・ド・フランス100話』も紹介しておく。1903年の第一回大会から2013年の第百回大会までで印象的な出来事100話を時系列順に並べた気軽な読み物である。自転車競技に興味があるなら楽しめるかもしれない。出版は僕の好きな出版社ベスト3に入る白水社の、文庫クセジュに収録される。この新書シリーズは影が薄くて書店でも見落としがちであるが、岩波新書に次ぐ歴史があり、なかなか面白いタイトルが並ぶ。因みに、自転車競技に関する本で僕が一番面白いと感じたのはランス・アームストロングのドーピングを元チームメイトが告発した『シークレット・レース』である。周りがドーピングに手を出している状況下では、クリーンな選手は集団について行くことすらできないというのが衝撃的であった。集団内では空気抵抗が減るので速度を維持する負荷が激減するのに、である。こちらは自転車に興味が無い人にもおすすめ。

これを書いている日の深夜過ぎにはいよいよツール・ド・フランス2020年大会のチーム・プレゼンテーションが開かれ、今週末には開幕戦が行われる。例年からは時期外れであるが、今年も睡眠不足が加速しそうだ。

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