レオパードゲッコーモルフ大全

マニアックな本の紹介が続いて申し訳ない。動物飼育業界で「モルフ (morph)」とは、誤解を恐れずに言うと、同一種(生物学的種)内のヴァリエーションの中で外見上の形質が遺伝的に制御される変種を指す。「品種」ともいう。ギリシャ語を語源とする”morpheme (形)”の簡略形で、もともと遺伝学で使われる用語 (amorphなど) であったが一般的に見るようになった。因みにここで言う「種」とは同一構成員間で繁殖可能で、かつその子孫が生殖能力を持つような個体群の分類を意味する。要らんことしいのヒトは身近に関与する生物種に様々な「品質改良(?)」を加えてきた。『眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎』には良質の羊毛を得るためのヒツジの品種改良と狂牛病について面白い話が出てくる。遺伝的にコントロール可能であるという条件付きではあるが、「モルフ」の多様さは何らかの様式でそれだけヒトとの関係が深いことを示唆する。イヌ、ハエ、キンギョ、メダカの仲間などがいい例だろう (イヌの品種をモルフと呼んでいいかは分からない)。近年そこに台頭してきたのがヒョウモントカゲモドキ、英名レオパードゲッコー、通称「レオパ」だ。

知らない人のために少し説明すると、レオパは手のひらに乗るくらいのサイズの、地表性・昆虫食・夜行性のトカゲである。西アジアの乾燥地帯に住み、事故が無ければ自然下で20年以上、飼育下でも十数年くらい生きる。飼育下の爬虫類の寿命が一般的に自然下より短いのは栄養の偏りか運動量の制限が影響しているかもしれない。動きはのっそりしていてコレといった攻撃法も持たないので取り扱いが容易である。YouTubeで検索すると可愛い動画が幾らでも出てくる。

ペット爬虫類界隈には御三家的種が有るらしく、コーンスネーク、以前にも少し書いたフトアゴヒゲトカゲ、そして本書のレオパがそれに当たる。人によってはボールパイソンも含める。書店のペットコーナーに行けば御三家に対象を絞った飼育書が出ているくらいだ。どれも人馴れしやすく飼育が容易で、寿命が長く且つ繁殖も狙える種であるらしい。そして多様なモルフが現在進行形で生み出されている。僕が若い頃にも図鑑やペットショップなどでそれらの種は見ていたが、このような流行は無かった気がする。近年の何時かの時点で爬虫類の中の或る種はグッピーのように「品種改良」が可能であるという「発見」、または「発見された知識の普及」が有ったのだろう。それができると分かれば推し進めるのがマニアの性である。

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レオパのとあるモルフ系列に於いては、事の起こりは1996年、パキスタンからアメリカに輸入された或るワイルド個体が二つの卵を産んだ。孵化した二頭はオスとメスだったが、その内のメス個体が「アルビノ」の表現型を持っており、オス個体は「アルビノ」でははかった。「アルビノ」とは皮膚に黒色色素を欠く表現型を指す。カメや哺乳類などではアルビノ個体は通常白っぽい (場合によっては真っ白な) 体表を持つが、レオパのアルビノは黒が無いだけで他の色は乗る。この2個体は紆余曲折を経て1997年、当時既にマニアのカリスマ的存在であっただろう、本書の著作者の飼育下となる。残念なことにこのアルビノのメス個体は生殖能力が無く、著者の元に来て間もなく死んでしまう。ここで著者は残った雄個体がアルビノ遺伝子を保有する可能性に賭ける。確率は2/3で低くはない。

ここで少し解説すると、レオパでは体表の黒色色素はどうやら一つの遺伝子(仮に黒色遺伝子と呼んでおく)が発現することで得られる。こちらは優性遺伝子なので父親か母親の少なくとも片方から受け継いでいれば発現する形質である。黒色遺伝子と対になるアルビノ遺伝子は劣性遺伝子で、父親と母親の両方から受け継いではじめて (別の言い方をすると、黒色遺伝子を一つも持たなければ) アルビノとなる。即ち、アルビノ個体がアルビノ遺伝子を持つ確率は1だが、その兄弟の非アルビノ個体もアルビノ遺伝子が自然下で希少だとすれば約2/3の確率で保有する。

さて、著者は残った雄個体に複数の「優良」メス個体を掛け合わせて100頭の娘個体を得る。これらの娘個体と元のオス個体を掛け合わせて (本書では明言されてはいないが、雄親とその娘との近親交配であるとは明らか) 1200個の卵が産まれた。期待通りであれば1/8の確率で、平均では150のアルビノ個体が孵化するはずである。果たして、1999年春、孵化ケースを確認すると最初のアルビノ幼体を目撃し、著者は喜びでその場に崩れ落ちてしまう。この雄は体を巨大化させる遺伝子も持っていることが後に判明した。世界中にいる何万頭ものレオパの祖先となり、2013年に17歳でこの世を去る。

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著者によれば出版時2019年で既存のモルフは800種類を超える。こうしたモルフは比較的単純な遺伝子コンビネーションで制御されるものから順に探索されていく。自然界であまりにレアな突然変異に依存する形質やポリジェネティクス(複数の遺伝子が影響)的な形質はまだまだこれからも発見されるのだろう。当然ながら、ハエのモルフにも有る様に、精神疾患や行動不全とリンクして発現するモルフも出てきており、これらがペットとして一般的に流通することは懸念される。ちょっと興味深く、見た目にも楽しい本なので紹介した。マニアが嵌るのも頷ける。因みに僕は自然なモルフが好きである。今のところ。なお、遺伝学用語の定義を忘れており、間違って使っているかもしれない点を断っておく。

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