ラテン語名句小辞典

ニック・レーンの”Oxigen” (酸素)をようやく聴き始めた。危惧した通り内容が結構細かく、歩きながら聴きでは注意が頻繁に逸されるので良くても断片的にしか頭に入ってこないのだが、その断片がとても面白い。生命の起源とその進化に酸素が深く関わっているようで、現在の生物の共通祖先 “LUCA” (Last Universal Common Ancestor)なども紹介されている。これは、もし生命の誕生が一度しか起こらなかったと仮定すれば、全ての生物(の情報)が断片的に共通の単一祖先を持つという、ミトコンドリア・イブと類似の(詳しく知らないけど多分)、論理的な仮説である。そしてこれをサポートする証拠がどうやら沢山あるそうだ(一点だけ注意すると、LUCAは「最初の生命」とは異なる概念である)。もう一つ、本文を書く直前に聴いて記憶に残っている小ネタが、ミトコンドリアは紫色をしているということ。もし人にメラニン・ミオグロビン・ヘモグロビンなどの色素がなければ人は紫色をしており、エネルギー活性によって色が変わって見えるだろうと言う。本書の翻訳版が出たら十中八九読むだろうと思う。出版社は前作と同じくみすず書房かな、多分。

さて今現在僕は相変わらずラテン語にハマっていて、表題の『ラテン語名句小辞典』を日々持ち歩き、電車の待ち時間などのほんの少しだけ手持ち無沙汰な時間にパラパラと捲っている。本書の特徴は、ラテン語で書かれた古今の文章の中で、現代にもしばしは引用される名句約1000項目を取り上げ、ラテン語原文(出典も)と日本語訳、それが使用された文脈の解説を原文のアルファベット順に載せる。そのうち約5分の1程度の項目には各単語の文法的説明が付く。自分の文法知識を確認しながら読めるので、ラテン語初学者にはとても良い本だと思う。僕自身は毎回適当にページを開いていて、どの程度読んだのか正確なところを把握していないが、目を通したのは未だ精々4分の1程度だろうか。同類書には岩波文庫の『ギリシア・ローマ名言集』などが有り、僕は未読であるがこちらの方が値段も安くコンパクトでお勧めかも知れない。

ラテン語を始めて約半年、未だに毎日一寸ずつ進んでは後退しつつ読んでいる『しっかり学ぶ初級ラテン語』の例文と重複する句も結構多い。ラテン語は名言の森である。その中でも、以下は両方に載っていて、今思い出せる中で僕が特に気に入っている名言:

  • “Disce quasi semper victurus, vive quasi cras moriturus” 「永遠に生きるかのように学び、明日死ぬかのように生きよ」(出典は忘れた)
  • “Multa petentibus desunt multa” 「多くを求める者は多くを欠いている」(ホラーティウス)僕自身のことである。
  • “Nihil agendo homines male agere discunt” 「人は何もしないことによって、悪い行いを学ぶ」これも心当たりが。
  • “Nunc aut numquam” 英語の”now or never”. 「今でしょ」的な意味。英語にはラテン語由来の表現が多い(ように思える)。分詞構文を用いた表現法もラテン語由来だそうな。
  • “Tacens vocem verbaque vultus habet” 「沈黙した顔は声と言葉を持つ」(オウィディウス)なぜこれが気に入っているかといえば、語順がいかにもラテン語的だなあと思ったので。”Tacens” (沈黙した、形容詞)が掛かるのは3つ先の “vultus” (顔)となる。慣れないとややこしい。僕もまだ慣れてないけどな。
  • “Fuimus troes, fuit ilium et ingens gloria teucrorum” 「我々はトロイア人だった(今はもう違う)。そしてトロイア人の大いなる栄光もあった(今はもうない)」(ウェルギリウス)これもいかにもラテン語的な表現。
  • “Ave Imperator, morituri te salutant” 「さらば指揮官(皇帝)殿、死にゆく者たちがお別れを申し上げる」(スエトニウス)捕虜の模擬海戦で使われたと言う話。背景はともかくとして、言葉の悲壮感が格好良く、勝手に妄想を膨らませて目頭が熱くなる。歳のせいであろう。
  • “Scribendi recte sapere est et principium et fons” 「正しい知識を持つことは書くことのはじめであり、源泉である」(ホラーティウス)いい加減な知識で書いておいてアレだけど。

キリがないのでこの辺で止めないと。とにかく、名句好きにはハマる一冊である。ラテン語(その派生語や英語も含めて)の知識があるならば殊更に。