高地文明―「もう一つの四大文明」の発見
「四大文明」はもう古い。この言葉の起源には何通りかあって、一つは戦後に出版された山川の教科書が初出というもの。或いは清朝末期の中国で国威発揚の為に使用されたという説もある。こちらは中国がメソポタミア文明などと肩を並べるという、誰もが感じたであろう「無理矢理感」を説明している。平賀・キートン・太一によれば(僕の記憶が正しければ)国際的には通用しない唯の俗語に過ぎず、当然ながら学術用語などでもなく、内実も無い(そんな言葉を教科書に載せるのはどうかと思うのだが)。それならばと著者が提唱したのが「(亜)熱帯高地四大文明」、本書のテーマである。
著者の挙げる四大高地とはメキシコ高原、アンデス、チベット、エチオピア高原である。チベットを除いて低緯度の熱帯地域に位置し、年間を通して気温が非常に安定している。一方で垂直方向の気候変化は大きく、低地の所謂熱帯から5000メートルを超える寒冷地までがほんの数百メートル圏内に分布する。植生の多様性のお陰かどうか、それぞれが文明の礎となる穀物(と芋)の原産地としても知られる。それらの穀物(と芋)に共通するのは雑草的生態。人間の活動の結果として生じるニッチにいち早く侵入して育成する類の植物種であった。
本書の力点はアンデス文明に置かれる。アンデス文明の基礎として、著者は従来のトウモロコシ説を廃してジャガイモ説を推す。「芋なんかで力が出るか」と戦後食糧難の経験からトウモロコシ説を疑わない学者に、「私は長年を現地で過ごし、ジャガイモ活用の実際をこの目で見てきたのだ」と反論する。そんな感じの本。