ものがたりの家

寝る前に空想をする人は多いと思う。僕の昔からの空想パターンの一つは、絵でも写真でも実際見た風景でも良い、そこに小さな隠れ家を置き、間取りを詳細に設定していくというもので、大抵は完成する前に寝入ってしまう。たぶん、子供の頃に秘密基地を作るのが好きだったからだ。当時近所の小学校5・6年生位の大きいお兄さんたちが近くの山に秘密基地を作っていて、一度だけ連れて行って貰ったことがある。それは大きな木を柱にした背の高い三階建て構造で、幼い僕は心底たまげた。この時の経験が大きい。それに加えるなら多分、大きくなってから色んな場所で、駅の片隅とか藪の中とか山の中で野宿したことも原因だと思う。探せば寝るのに結構いい場所が有る(有った)のだ。

秘密基地に関しては、木の上に作るのと地中に作るのは僕には無理であった(当たり前だが水中も無理だ)。地中は考えただけでも大掛かりになるので早々に諦め、木の上は、相応に枝を張った木さえ見つければ何とかなりそうなのだが、近所の山には細い枝の木しかなく、無理やり板を渡したものの怖くて乗れたものではなかった。なのでこれらは僕の憧れのままである。昔、祖父から、戦前に山賊が寝床にしていたという岩組のほら穴の場所を近所の山中に教えて貰っていたのだが、そこは何となく薄気味悪くて使用する気にはなれなかった。

アマゾンの紹介画像より

そんな間取り好き且つファンタジー好きでもある僕が、空想の家を描いた本書に惹かれない筈がない。僕が行きつけの本屋では、アニメの想定上の舞台になった(らしい)土地柄か近所の映画館がアニメを上映する頻度が高いからか、そういうイラスト関係のコーナーが妙に充実している。一、二ヶ月ほど前から本を購入する度に書店内に有る喫茶店の割引券が貰え、溜まりに溜まった券を消費するために、ここ最近は足繫くその喫茶店に通っている。その入口の前が丁度そういうコーナーで、出入りする度に本書をパラパラと捲っていたのだが、そんなに気になるならと昨日購入した次第である。

アマゾンの紹介画像より

本書の内容については、言うべきことはあまり無い。図鑑の類と一緒で、好きな人なら何度でも眺めるだろうし、興味のない人には何の価値もない本なのだろう。僕にとっては、多くのハードカバー小説と同じくらいの値段でこれだけ楽しめるなら「買い」である。家のそれぞれに物語が有りそうなのも良い。因みに、周りの風景も含めて僕が最も気に入ったのは「竜使いの郵便局」と「羊飼いの見張り小屋」。厩舎には僕ならヘビを飼う。