猿丸幻視行

先日、宮城谷昌光の『劉邦』三分冊の中の上巻がKindle Unlimitedに入っていたのを見つけ、寝床で読んでいた。彼の著作を読む行為は、単調でそこそこ美味しいと思う食べ物を、最初から最後まで同じ調子で淡々と摘み続ける感じに似ている。僕の頭に浮かんでいる例えは柿ピーで、中でもちょっと面白い作品なら柿ピーわさび味になるのだが、『劉邦(上巻)』は湿気気味のノーマル味だった。残り2冊のkindle版は未だ結構高いし、先が気になるわけでもないので続きは読んでいない。いずれ読み進めることが有れば、ここで紹介するかもしれない。

代わりの寝床本として選んだのが表題書である。本書は遥か昔に一度読んでおり、大変面白かったという記憶だけが残っているものの、詳細は完全に忘れている。さて読み始めてみると、思った以上にユルい内容だった。現代(多分1970年代)に古典文学を専攻する大学院生がとある薬の作用で昭和初期の坂口安吾に憑依し、柿本人麻呂に纏わる暗号を解読して、人麻呂がどうして処刑されたのか、猿丸太夫とは誰なのかを解き明かすという内容。暗号解読パートがかなりの分量を占め、そういうものが好きなら少しお薦めできる。が、色んなところから都合の良い諸説を集めたのであろう、無理やりこじつけた印象がのこり、あまりスッキリとしない。歴史ミステリーの「歴史」部分に重点を置くならお薦めしない。本書最大の謎は、現代パートが何故必要だったのか、という点だろう。

本書を食べ物に例えるならポテトチップス。少しなら美味しく食べられるが直ぐに飽き、惰性が勝る。栄養もない。癖になりやすい点や食後の脂っこさも似ている。そしてポテトチップスと印象が重なる本のジャンルはライトノベルである。その定義は知らないし、そう銘打った本は『万能鑑定士Qの事件簿』しか読んだことが無いのだが(D&Dをネタにした海外小説もラノベ的かな.『ドラゴンランス戦記』とか)。一つ断っておくと、ラノベだから悪いと言っているのではない。ラノベも小説の多くも漫画も、ポテトチップスも、其々がそれぞれの嗜好性を持つ只の楽しい娯楽に過ぎない。方向性が違うので楽しみ方が異なるだけである。僕にとって、本書は昭和のラノベであった。