日本史の叛逆者 私説・壬申の乱

再びラノベ。先日紹介した自説歴史作家の別の小説がKindle Unlimitedに入っているのを見つけ、寝床に入って読み始めたらそのまま読み切ってしまった。続きを翌日へ残したくなかったのである。何時でも中断できはしたのだが、そこは著者の上手さが勝った。文章の読みやすさと会話を多用した文面の隙ぐあいはラノベのお手本のようであり、頭を空っぽにして読むことができる。というよりは、読んでいると頭が空っぽになる。

以下、大雑把すぎる粗筋。乙巳の変(大化の改新)から始まる皇位継承の物語は大海人皇子(皇子となったのはずっと後)と異父兄弟であり年下の「兄」中大兄皇子(終盤は天智天皇)との確執を軸に進み、壬申の乱へと向かう。物語の中核となるのは以下二つの対立構造。一つ目に関連するのは大海人皇子の血統。彼の父親は「外国人」であった。不遇な境遇故に思慮深く情け深い人格に育った彼と、聡明ではあるが狭量で世間知らずの中大兄皇子が対比的に描かれる。二つ目は唐王朝の脅威への対応。唐は朝鮮半島の支配を目的に新羅と同盟し、百済と高句麗を滅ぼす。当初弱小であった新羅からすれば、唐への朝貢は生き残るための手段であった。新羅による朝鮮半島統一後、日本はどちらと同盟するかで意見が対立する。

本書がある程度読める作品になっている理由として、歴史上の一連の有名な出来事に負うところが大きいと思う。僕が最も魅力を感じる、歴史にいまだ霞が掛かったままの時代の出来事である。歴史を題材にしてはいるとは言うものの、どの部分が「史実」でどこが著者の空想か、僕の拙い知識ではハッキリと区別できないので、有名な名前と出来事以外は全て創作と思った方が良さそうだ。比較として井上康の『額田大王』が読みたくなった。著者の『逆説の日本史』シリーズにこの時代を取り扱った巻が出ている様だが、どうしたものか。こういう文章に慣れてしまうのはちょっと困る。

僕の印象では著者を二回りほどスケールアップすると司馬遼太郎になる。司馬遼太郎も読みたくなった。