君のクイズ
面白かった。立て続けの投稿になるけれど、今書いておかないと恐らく忘れてしまうので手短に紹介したい。というのも、二日後には主に今年購入した他の不要本と纏めてネット古本屋へ売り払ってしまうから。本書の著者は『ゲームの王国』を読んで記憶に残っており、前作は何だかしんどそうなのでスルーして、手軽に読めそうな(そして何処そこの雑誌かテレビ番組?で大反響?だそうな)今作を手に取った次第。実際映画一本分(190分)の時間で読める分量で、値段もほぼ同じ。ジャンルは異なるがお話自体はあの海がテーマのSF続編映画よりも数段面白い。
そのお話の方はと言うと、主人公である早押しクイズ選手と天才医学部生タレントがテレビ番組の早押しクイズ大会の決勝戦で対決する場面から始まる。次の問題にどちらかが正解すれば優勝となり、「問題、 」と問題文が読み始められて未だ一言も聞き取れない時点で天才はボタンを押し、少し考えて正解を答えてしまう。この事態に会場は響めき、大会に参戦したクイズ選手達も納得がいかずに番組と天才タレントに説明を求めるが、何も回答を得られぬままお開きとなる。
早押しクイズは競技カルタのようなもので、問題文のある箇所まで読まれれば一流選手なら答えがほぼ確定するというポイント(確定ポイント)が存在する。最後まで読まれて誰も答えられないような問題は、設問の方に難がある。勝つための前提となる知識の量はカルタの比ではないけれど、そこで競われるのは多分(僕はよく知らないので)、知識の量というよりは判断力と記憶の検索力であるらしい。問題文の一音一音を聞き取る毎に可能な答えは益々絞り込まれる。そうしてある時点に至り、答えが未だ思い浮かばなくても知識を活用すれは答えが確定しそうだ、と頭の中に閃くものがあれば回答権を先ずは得て、それから回答時間内で答えを手繰り寄せるような手順を(手順も)とるそうだ。「クイズはスポーツ」という言葉に最初は違和感を感じたが、読み進めるにつれて早押しクイズには競技かるたと同様なスポーツ性が確かに有ると納得した。
さて、天才は一文字も読まれない問題に正解した。問題が未読であるなら可能な答えは無限(一応有限だけど)に存在するので、周囲の他のクイズ選手達は番組の「ヤラセ」を疑う。一方、主人公は無音の中に答えを絞り込む要素は本当に無かったのかと沈思を始める。過去に遡って番組VTRを見直してみると、天才タレントはクイズ選手としての未熟さは残しながらも、確定ポイントよりも前でしばしば正解を導いていることが分かる。果たして彼には何が見え、何を判断基準にしているのだろうか。こうして主人公は「一文字も読まれない問題に天才が正解できたのは何故か」という問題を解くべく、記憶を深く潜っていく。クイズのクイズという、入れ子状になった小説であった。
短い小説でこれ以上はナタバレになりそうなのでこの辺で止めるが、後一つだけ。最後の一転はどうもいただけない。仄めかし程度でも読者には伝わるし、何よりその軽率さがそれまでの印象(この印象はあくまで主人公視点のものではあるが)とやや合わないように感じられる。(と書いておきながら何だけど、頭の良い著者が読者サービスの為だけにそのような展開にするはずがなく、それまでの何かと関連しない筈が無いと思われる。この結末も天才の言う「復讐」の一端だとすれば筋が通るように思う。ちょっとしたクイズであった。)但し本書後半部分は話が見通せた所為もあって僕は流し読んでおり、もう一段有ったかもしれない仕掛けに気付かなかっただけなのかもしれない。
今聴いているAudibleタイトルがコレ。著者が長年書き溜めた科学哲学関連のエッセイを集めたものだそうで、人類の科学史において分野の地平を拓いた革新的なアイデアや発見が紹介される(未だ聴き始めたばかりなのでどう話が進むのか不明だけれど)。今はマンデルブロとフラクタルの話題が丁度終わって次元の話に入ったところ。朗読のペースがゆっくり目で聴き取りやすいのが何より良い。ところでこの本、少し前にちくま学芸文庫から翻訳版が出ているのを見た覚えが有るのだけれど、検索しても何も引っ掛からなかった。出て欲しいと思っただけだったかもしれない。