ワールドトリガー

4月から通勤に電車を使わなくなり、歩く量が増えてAudibleを聴く時間が増えた。一方で本を読むのは今では寝床に入ってから寝入るまでの短い時間のみになってしまい、習慣を変えなければいけないなあと思う。しばらく前から読んでいたのは『古今和歌集』。言いたいことは特に無く、それも先日一通り眺め終わり、次に『拾遺和歌集』をパラパラと捲り始めたところで今月配本の岩波文庫にまた良さそうな歌集が有った。そちらについてはまた後日に、機会があれば。『古今和歌集』は新たなトイレ本として、長らく愛読?してきた『くさい食べもの大全(小泉武夫著)』と置き換えることにした。

歌集と並行して、寝床で読んでいたのが表題のマンガ。人づてに面白いと聞いていたので読んでみてハマった。随分前から連載されているらしいので有名なのかもしれないけれど、手短に内容を紹介すると、異次元からの侵略者(ネイバー、ご近所さん)と戦うために、ネイバーから学んだ技術を運用して10代から20代前半の若者を訓練するというお話。一通り基礎訓練を終えて十分な能力が有ると認められると、戦闘員3〜4人とオペレータ(外部支援)で編成されるチームを組み、他チームと模擬戦闘して戦績と戦闘技術を競うことになる。試合にはバーチャル?な身体と舞台(架空の市街地など)を使う。参加者の四肢や首がバンバン飛ぶが、スポーツライク(eスポーツ)なので残虐性は感じない。性的要素も皆無である。先が不思議と気にならないマンガで、健康的な食事を摂ると意外と少量でも満足するように、少し健康的過ぎるのかもしれない。言い方を変えると面白さの要素になる毒成分が無い。

僕が好感を持った点を幾つか挙げると、先ずは物語展開がよく練られており、絵柄も含めて全体的に丁寧。もうちょっとここがこうだったら、という様な欠点が見当たらないこと。全教科で90点を取り部活動でも頑張る超優等生のような印象である。次に、今のところチーム戦が主題となっていて、切磋琢磨していく様子や大学の部活・サークル的なノリが楽しい。登場人物がすごく多いのだが、それぞれに個性があって丁寧に取り扱われている点も好印象。ただし、登場回数の少ないキャラが会話の中で名前だけ出てきても「誰?」となるので、光文社文庫の『戦争と平和』に付属する大きめの栞のような登場人物一覧が欲しい。戦闘描写を無駄に引っ張らない点は素晴らしいことこの上ない。某古代中国歴史マンガも見習って欲しいものである。あちらはダラダラと同じ展開ばかりなので、30数巻以降は読むのを止めた。

ページ毎の情報密度が高く、読むのに時間が(マンガにしては)かかる点は良いとも言えるし悪いとも言える。この漫画のお陰で、ここ一週間は寝不足気味になった。なんだか体調が優れないし、ちょうど職場でコロナ感染者が出たと聞いたので、PCR検査を試しに受けてみると、早くも2時間後にはもう検査結果が送られて来て、陰性であった。

最後に、前回に紹介したAudible “Survival of the Friendliest” も終わりに差し掛かった。かねてより性善説と性悪説では僕はどちらかと言うと前者よりで、本タイトルを聴いてさらに大きく前者に傾く。善悪は人間「関係」においてのみ意味のある価値判断のカテゴリーで、「善」とは利他行動の別名であり、通常は自分により近い「他」に向かいやすい(これを書きつつでっち上げたことなので、深く追求しないでいただきたい)。スポーツジムで置物程度に思っていた他人と、ふと思い立って挨拶し、顔を合わせるたびに会話を交わす関係になると、互いに気を遣うようになり、時間は余分に喰うけれど居心地はずっと良くなる。

歴史上で人間集団が発露してきた数々の残虐行動、あるいは差別感や偏見を抱きやすいという特性は、自身が帰属する集団に対する利他行動、またはその種の心理の過剰発現と考えると納得がいく。こうして異教徒は(自分達と同様の)人間ではなく、不良青少年の仲間意識は強く、仔を連れた母熊は危険なのだ。