戦国ブリテン
面白かった。6世紀から11世紀にかけて、ゲルマン系民族に支配されたイングランド諸王国の歴史を、八人の王の功績を中心に駆け足で概観した内容である。この時代のイギリスの歴史には不明な点が多く、その理由は9世紀頃からヴァイキングが暴れ回って重要な文献が焼失したからだそうな。当時、多くの記録を残して保存に努めたのは修道院だったのだが、修道院という組織の性格上、その隠遁性が簒奪者にとっては格好の「お菓子の家」となったらしい。
というわけではっきりしない事も多い諸王の足跡であるが、何せ名前が互いに類似する事もあり、読んでいる側も屢々よく分からなくなった。後者の分からなさは僕の記憶力の所為。それぞれの時代毎に一人の覇王(諸国の王に一目置かれた王のこと)かそれに類する王を中心に据え、その半生がテンポ良く語られるので、全編を通して飽きる事が無い。もう少し詳しければ、新書の範囲を超えるかも知れないが、なお良かったと思う。同著者の『消えたイングランド王国』を読みたくなった。
因みにBBCが2000年頃に実施したアンケートで「最も偉大だと思うイギリス人は誰か」というのがあり、一位にチャーチル、四から六位にダーウィン、シェイクスピア、ニュートンだそうな。同じことを訊かれたら僕も四から六位の人を挙げると思う。同じ内容で日本人から誰かを挙げるとしたら、うーん、誰だろう。ちょっと検索してみると、或るサイトでは一位に黒澤明、二位に宮崎駿、三位に本田宗一郎が入っていた。僕なら、伝説込みで空海かなあ。慣用句でも使われるのは相当なものだと思う。
表題書が書店に並ぶ直前に、場つなぎとして読んだのが『浮遊霊ブラジル』。今話題?の『水車・・・』の著者の短編集で、タイトルに惹かれたのもあるが、何より本の薄さが丁度良かった。「給水塔と亀」は僕自身の十数年後(または数年後)の生活風景がありありと思い浮かぶ様な良作。「浮遊霊ブラジル」は初の海外旅行でアイルランドのアラン島へ行こうとした矢先に亡くなった老人が、浮遊霊として目的地を目指す。「地獄」では生前に小説やドキュメンタリー、ツールドフランス等、いわゆる物語を浴びるほど享受した女性が、死後に「物語消費しすぎ地獄」に落とされ、簡単に纏めることが出来ない程の多様な体験を強制される。未読の他4話も面白いに違いない。
ここ一月ほど読んできた『ラテン広文典』は、ようやく本論が終わった。羅文和訳の問題は後半の半分ほどは分からず終い。補論も結構な分量があるので、もう暫くは持ち歩く事になりそう。それにしても良い本である。旧漢字が多数使われており、これがまあ複雑で絡まった糸屑にしか見えない。