オービタルクラウド
最近Audibleでは “Through Two Doors at Once” を聴いている。量子が粒子と波の二重性を持つことを示した有名な実験「二重スリット実験」に関する一般書である。元々は思考実験であったが、20世紀後半(60年代?)に電子で、後により高質量の粒子で実証される。実験では、電子を感光板に向けて一個ずつ発射する。その前には十分に細い二つのスリットが置かれていて、電子はこのどちらかを通過して感光板に到達する。或いは両方を同時に(?)。この操作を繰り返すと、感光板には波の特徴である干渉縞が描かれる。面白いのはここからで、電子がどちらのスリットを通過するか観測した場合には干渉縞は現れない。つまり、観測者の有無で量子の振る舞いが変わるというのである。何が起こっているのだろう。
このように、全く直感的でないところが量子力学のトピックスの面白いところである。直感とは経験から生まれる感覚であるから、僕たちの経験の及ばない世界がその表層に生きる僕たちの足元に地層のように(?)積み重なっていることが垣間見えて、興奮したり恐怖したり、目眩を覚えたりする。『指輪物語』を読んでその世界の背後には「まだまだ何かある感じ」がするのと同様に、物理的世界は21世紀でもなお味わい深いのである(『J.R.R.トールキン―世紀の作家』)。本タイトルはなんだか難しくて、聴き流すだけでは僕にはよく分からない。日本語翻訳版『二重スリット実験』が出ているものの、翻訳に問題があるらしく、そちらを読むのはちょっと躊躇われる。
表題書の方は、何か刺激的で面白い小説を求めて読んでみた。その条件であれば歴史ミステリーかSFが僕の選択肢の筆頭で、一応SFコーナーの中から直感頼りに選んだのだけれど、SFよりは冒険小説というジャンルに入るだろうか。登場するアイデアや道具立ても現在の技術で実現できそうなものばかりである。多分。もうずっと昔に朗読CDで聴いたダン・ブラウンの『デジタル・フォートレス』や『デセプション・ポイント』に近い雰囲気の、映画化がしやすそうなお話であった。まだ下巻の半分程度を読んだに過ぎないが、その少し手前辺りから「もう何もない感じ」がしており、いつ放り出しても構わないと思っている。