ハイペリオン

表紙絵がダサいのは難点

ここ二週間ほどはちゃんと読み通した本が一冊しかなく、その一冊も後に少しだけ触れるが特に紹介したいような本ではないので、つい数日前にaudibleで聞き終わったばかりの『ハイペリオン』を紹介することにする。翻訳の方は高校生活の終わり頃に読んで、そのスケールの大きい面白さに魂消てしまい、以降しばらくの間、僕が海外SF小説にハマる切掛になった本であった。10年ほど前には本タイトルと続編の朗読CDセットも出ていたが、それぞれ20枚近くあるCDを携帯再生機に取り込むのが手間なのであまり聞いておらず、audible版を購入したのを機に処分してしまった。

舞台は28世期、「大いなる過ち」(それがどういう事件であったかは続編『ハイペリオンの没落』で語られる)で地球が消滅して数百年後の世界。人類は銀河系に広く進出しており、独立AI群「テクノコア」が提供する「ファーキャスターポータル」と呼ばれる恒星間瞬間移動ネットワークと、人類をはるかに凌駕する演算力に基づく未来予知能力による助言・助力を受けて銀河連邦と呼ばれる政治勢力を形成している。その連邦の辺境に位置するハイペリオン星には「時間の墓標」と呼ばれるエントロピー減少場に包まれた遺跡があり、そこではテクノコアの予測力も精度を失う。その空っぽの遺跡には、遥かな未来から時間を逆行して内容物が送られて来ると推測されている。遺跡の周辺では「シュライク(百舌鳥)」と呼ばれる、全長3mの怪物(表紙絵のトゲトゲのやつ)も目撃される。そして今、その遺跡が開きつつある(エントロピーの減少が無くなりつつある、だったかな)という。連邦政府は墓標またはシュライクと関わりの深い七人の巡礼者を選び、墓標の謎を解くために送り出す。

本書は四部で構成される壮大な物語の導入部という位置付けで、墓標までの道程で六人(途中で一人消える)夫々が順番に、墓標またはシュライクと関係するようになった経緯を物語る、という内容。一つの物語ごとにこの作品の舞台・背景世界を理解するための要素が少しずつ読者に開示される。同時にそれぞれが互いに独立した、よく出来た短編小説でもある。第一話目「神父の話」は語り手の前任者である神父が或る伝説的な惑星の伝説的な部族に布教活動に赴き、そこで恐怖に遭遇するという、ホラー小説である。第四話目の「学者の話」では、学者の娘がとある事故によりエントロピー異常を体に被り、時間の経過とともに体が若返り、同時に記憶も失われていく。次第に幼くなる我が子を世話する学者は、「娘を墓標に捧げよ」との啓示を受ける。準えるのは旧約聖書のアブラハムの逸話。このように、本シリーズは全体的にキリスト教的要素が多い。第5話はイエスの母マリアを連想させる。他の語りも同様に何かしらのモチーフが有ると思うのだが、僕には分からなかった。

巡礼者たちが墓標に向かう途上で本書は終わるのだが、小説作品としてはコレ単独で完結しており、以降の巻は蛇足ともいえる。ただし、エンターテイメントとしてより面白いのは次の巻であると思う。

さて、一冊だけ読んだ本というのが上に載せた『言語学バーリ・トゥード』。東京大学出版会の広報誌に連載されたものであるそうだ。気軽な、砕けた内容のエッセイなので、言語学に興味があれば読んでみると面白いかもしれない。