古典ラテン文典

前に紹介した「バナナのやつ」、そういえば正式タイトルを書いていなかった。Audible版は “Never out of Season: How Having the Food We Want When We Want It Threatens Our Food Supply and Our Future”、日本語訳タイトルは多分『世界からバナナがなくなるまえに』である。これは本当に面白いのでおすすめしたい。僕自身はやっと半分程度を聴いたところ。Audible版は朗読スピードがかなりゆっくりなので、英語を聴くのに慣れていない人にも適していると思われる。冒頭から興味を引く話題が次々と出てくる。例えば世界のカロリー消費(植物性由来のみだったかな?)の割合。米と麦がそれぞれ20数%を占め、それらに次ぐ砂糖とトウモロコシを合わせて60%になる。更に大豆とジャガイモを加えると70%である。ご存じだっただろうか。これらを集中的に栽培することでカロリー生産量は以前の数倍から数十倍に上昇し、人口が大幅に増加した。そしてこれらの作物抜きには膨れた人口を養うことが困難である。

この皮肉な現実の代償は空恐ろしいものである。幾つかの栽培種では品質や収穫性を重視するあまり遺伝的多様性が乏しく、または特定個体のクローン(遺伝子構成が同一で、ある意味その栽培種の個体群全体が一個体と見なせる)であるため、ほんの少しの外部要因から全滅する可能性が高い。例えばウイルスや寄生虫など、本来の環境下であれば遺伝子の多様性や天敵などで抑え(フィードバック)が効いているのであるが。そして現在の交通網は昔であれば「ほんの少し」で済んだ可能性を押し上げる。『香君』の世界設定はこれの単純化された例であった。本書の後に『香君』を読む場合はネタ元があからさまになるのでお勧めしない。読むなら『香君』の後に、種明かし的にどうぞ。

さて、『ラテン語四週間』本文部分は大体読み終わり、でも最後の方はかなりダレてしまい、さっさと切り上げて次に選んだのが表題書である。またも文法書だけれど、元々最初の一年間程度、だいたい7月までは文法中心の教科書を読もうと思っていた。最初に読んだ『しっかり学ぶ初級ラテン語』が初学者には多分最も分かりやすくて優れた教科書で、もう一度これを読んでもよかったのだが、僕は新しいものが好きなのだ(本書自体は新しくないけれど)。本書はボリューム面でも値段面でも初学者向きではないので注意しておきたい。何か一冊読んで、もう少し続けたいと言う人向けである。

序章にラテン語を特徴付けるいい言葉があったので紹介しておきたい。
「ラテン語は一読して重厚な言語であると言う印象を受ける。軽い単語を使う頻度が少ないからである。重厚な単語と言っても長大な単語のことではなく、短くて意味の重い語のことである。(省略)
主語(subject)もまたなくて良い。それは術後が文の中心になるからである。術後とは話者が言いたいことを「記述する」言葉であり、主語は述語によって「記述される」もの、述語に「服従する(be subject to)」ものである。(省略)
これらの特徴が集合して、ラテン語を短くて重い言語に磨き上げた。だからこれは極めて人口的な言葉であって、訓練もせずに自然に口からほとばしるといったような軽薄な言葉ではない。(省略)」

4月から同僚にイタリア人が来て、職場で英語を使う機会が増えた(昨年度まではほぼゼロであった)。英語だと、綺麗に話そうとさえしなければ、見切り発車でもなんとか通じるものである。著者基準では軽薄な?言葉となるのだろう。いつも、もっといい言葉がある筈なのにアレは何だっけ、となる。