文明交錯
いやー面白かった。ここ最近読んだ小説の中ではダントツである。10世紀頃に北欧人と接触したことによりアメリカ両大陸は馬・鉄器・天然痘への免疫を獲得していた。そして15世紀に海を渡ってきたコロンブスたちを撃退し、歴史は少しずつずれていく。その数十年後、本来のインカ帝国皇帝であるアタワルパは兄との後継者争いに敗れて200人の家臣と共に敗走し、コロンブス一団の船の残骸からナオ船(帆船の一種)を再建して海を渡る。ここから本書の大半を占める「アタワルパ年代記」が始まる。
アタワルパ一行はスペインの港町(名前は忘れた)に上陸し、丁度その頃発生した大地震による混乱に乗じて拠点を構える。さらに計略でカール五世(神聖ローマ皇帝兼スペイン国王)とその家族を捕虜にし、旧ヨーロッパ勢力への牽制としつつこの新大陸(ヨーロッパのこと)を、知恵と寛容そして本国インカとの交易から得られる財力で切り取っていく。「磔にされた男の宗教」への対処は最も面白い部分であった。そうしてアタワルパの治世が安定を迎えるころ、旧大陸から最大の敵が現れる。
続く「セルバンテスの冒険」の章ではアタワルパ没後のヨーロッパが描かれる。色々あって戦争捕虜となったセルバンテスとエル・グレコ(セルバンテスと同世代の画家)は逃亡中にモンテーニュ(セルバンテスより少し年長のモラリスト)の領地に身を寄せるが、セルバンテス自身の過失(多分)により再び憲兵に捕えられ、文筆家と画家を必要とする新大陸(セルバンテス視点なのでアメリカ大陸のこと)へと送られて行く。この章はたった40ページと短いながら、ヨーロッパ世界がどう変わったかを窺い知る上で効果的であった。
本書を読んでいる最中に脳裏をよぎったのが歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』で、歴史上では早々に滅ぶ(弱小)大名が勢力を拡大していく様が思い浮かんだ。それもその筈、後書きによれば、フランス語で書かれた本書のタイトルが “Civilizations” と英語表記になっているのは、戦略ゲーム『シヴィライゼーション(Civilizations)』から来ているんだそう。
本書を採点するなら10点満点中の8点くらい。余りに面白かったので著者の前作も読むことにする。各章受賞の『HHhH (プラハ、1942年) 』は新刊で出た際に購入したのに、気分が乗らずに一ページも開かないまま売ってしまい、勿体無いことをした。でも、先ずは『言語の7番目の機能』から。それについては後日また。