牛乳の炒め物

前回の実践されずに終わった(?)読書会のテーマは「料理」であった。僕自身は殆ど料理をしない。それなので「料理」本来の意味である、「(薬品を)計量する」「処理する」という、「做饭」から離れた用法にそぐう本を最初は考えていたが、或るキーワードが頭に在ると、どうやらそれに関連する本が余計に目に付くようになる。辻調理学校の創始者・辻静雄の人生を描いた『美味礼賛』が抜群に面白く、これを読書会用に考えていた。それに関してはまた別の機会に。

余人の料理をしない理由は様々だろう。僕は単に、せっかちで面倒くさがりなのでしない。が、切る程度はする。半ば物置にしている狭い台所の片隅で、果物やサラダで食べる野菜を「料理」する。土が多少ついていても洗わないのだが、これがどれだけ身体健康に悪いのかは気にしないことにしている。精神健康には大変良い。それらを洗う行為は僕の習慣になっていないのでストレスなのだ。

自身の行為としての「料理」は敬遠しているが、他人の行為やその結果としての「料理」には凄く興味がある。絵・写真からどんな味なのか想像するのが好きで、小さい頃はよく料理本の写真を眺めていた。何時頃だったか、どの本であったかは全く覚えていないのだが、「牛乳の炒め物」なる一品を中華料理本の中で見たことが有る。ボワッとした白い塊のような料理の写真だった。その時は中華の奥深さに感心するものの、ただ「ふーん」と通り過ぎてしまった。

後年、もう少し知識と分別が身に付いてくると、少し不思議に思えてくる。卵などと比べて、牛乳はタンパク質成分がそれ程多い食品ではない。煮詰めれば聖徳太子や醍醐天皇の好物であった「蘇」が出来上がるが、果たしてあのような液体を、「炒」という料理法で固形に変えることが有り得るのか。何か重要な要素が欠けている気がするが、どの本で見たのかも思い出せず探し出せずに長年放置していた。ひょっとしたら記憶違いかもしれない。

その疑問が解けたのは『沈夫人の料理人』という漫画を読んだ時であった。全4巻のこの漫画は『おかゆネコ』と並んで僕の一押し料理漫画である。時代は明、中国のある裕福な家に料理人李三が雇われる。李三の容姿は読書会の主催者に似ているのが少し面白い。彼は料理の腕は立つが気弱な性格なので美しい奥様の前ではオドオドしてしまう。美食家の奥様は李三の技量を寵愛しつつ、ドS気質から無理難題を言っては李三を「料理」する。とても微笑ましい(?)主従関係である。時代考証的に正しいかは知らないが、一話毎に料理一品に焦点が当たり、その調理過程が描かれる。本当の中華料理といった風で、これがとても旨そうなのだ。

炒鲜奶で検索

この漫画の第3巻、「炒鲜奶 (Chaoxiannai)」の章が「牛乳の炒め物」である。調理過程には、「むき海老に塩、卵白、片栗粉各少々をからめ、冷暗所にしばらく置き油通しする。鶏レバーを細かく刻み湯がく。火腿(中華ハム)少々をみじん切りにする。卵白5個分をよく溶き、塩少々を混ぜておく。片栗粉大匙3を牛乳1/2カップで溶き、卵白に加え海老とレバーも混ぜる。鍋を強火にかけて熱し、一度油を入れて鍋肌をなじませ、容器に戻す。改めて少量の油を取り、火から一度おろして牛乳を一気に入れ、鉄ベラで混ぜる。鍋を火に戻し、絶えず中の材料を混ぜては手早くすくい上げ、全体に平均して柔らかく固まってきたら皿に取る。」と書いてある。火加減も油加減もやたら難しいともあった。成る程そうであったか。卵白と片栗粉が入るなら納得がいく。「炒鲜奶」で検索すれば中国語のサイトが色々と出てきた。

中華料理のエッセーなら上に写真を載せた『中国くいしんぼう辞典』が実に面白い。原題『吃貨辞典』。中華料理を「家で食べる料理」、「街角で食べる料理」、「レストランで食べる料理」と分類して一品ずつ、その歴史も併せて紹介される。通して読むような本ではなく、興味のある個所のどこから読んでも良い気軽なエッセーである。ここに取り上げられた料理の中で、日本人の僕たちがタイトルだけ見て素性の分かるものは殆ど無い。炒鲜奶も入っていない。

お終いに気になっている点を一つ。読書会後に皆でよく行く中華料理店があり、僕はその後にややハードな運動をするので満腹にするのを避け、定食ではなく一品料理を頼んだりする。中断前にそこで注文したのがとある風変わりなチャーハンだった。チャーハンとメニューに載ってはいたが、出された実物は何やら白くボワッとした塊の中に米が少量混じったものであった。口当たりは無いに等しい。メニューの料理名をよく見ておらず今現在は不明なのだが、これが炒鲜奶に近い料理だった気がしてならない。次回行った際に要確認である。最初の数口こそ面白く食べられるものの、味が単調なので直に厭き、気持ち悪くて最後までは食べられなかった。美味しく食べるためには歯ごたえや口当たりが重要であることを思い知った一品であった。

牛乳の炒め物” に対して1件のコメントがあります。

  1. 夏草薫 より:

    中華料理の「炒める」って技はなかなか素晴らしいよね。
    西新の火鍋城という中華料理店で、ジャガイモの炒め物を食べたところ、シャキシャキという感じの触感の旨さに感動してしまった。ジャガイモはホクホクという状態が旨いと思っていたけれど、「炒める」という技で処理されると、全く別の料理になりますなあ。
    セロリの炒め物もおいしかったが、一番記憶に残っているのは、生姜と蟹の炒め物。生姜が薬味ではなく、主役の野菜としてメンマほどの大きさで炒められており、汗が噴き出す食べ物であったが、蟹と一緒にバリバリと食すと、元気が湧きだすような旨さでした。「炒める」という技、ちょっと習得したいですなあ。そしてあの、白いチャーハンももう一度、食べてみたいですなあ。(薫)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。