ハンガリー語の入門とスウェーデン語の学習書二冊

以前、姪が中国語を第二外国語で履修することに対抗してモンゴル語を始めると書いたのだが、書店で学習書を眺めているうちに気が変わり、ハンガリー語にした。以前から表題書の鮮やかな緑が気になっていたのだ。僕は独学の際にモチベーションの多くを学習書のスタイル(書き方、装丁含め)から得ていて、語学に関しては語学書というジャンルの本を読むことの方が主体なのである。危うく対抗心に押し流されるところであった。因みにハンガリーと言えば、ノイマンをはじめ例のあのプロジェクトに関わった多くの研究者を輩出した他に、恐らく殆ど売れていない(僕は知らなかった)日本のとある漫画家を国賓として招いた国家でもある。そのくだりは僕が嵌っている『激レアさんを連れて来た』の、初期の方の放送回にて紹介されていた。

本書は全くの初心者が興味本位で始めるのに丁度良い程度の学習書である。もう少し説明が欲しい個所も有るが、最初の一冊としてはこれで良いのかもしれない。フィンランド語と同様に、発音は殆ど綴りのままで迷うことがない。付け足し要素(膠着語の「膠着」部分)が語尾に伸びていくのも同様である。語源が同じだろうと僕でも想像できる言葉が、数はそんなに多く無いのだが、出てきて面白い。フィンランド語と違い、動詞の活用が主語人称のみならず対格(動作の対称)の種類でも変わるので、例えば「私はあなたが好きだ」は一単語(szeretlek)で表現することができる。この点が少しややこしい。なお、本書はまだ読み通せてはいない。半分ほどサッと見て、よく分からなくなり、最初から見直しているところである。

さて、以前に『スウェーデン語トレーニングブック』なる新刊書を見つけて読んでいるとこのサイトで紹介した。『フィンランド語語トレーニングブック』の姉妹編ということで飛びついたわけだが、数ある(そんなに多くは無いのだが)スウェーデン語学習書の中でも、最初の一冊としては恐らく最もお薦めできない学習書だと思う。これは僕の印象に過ぎないのだが、スウェーデン語については発音とアクセントが肝で、音声方面が全く説明されず言語の需要な要素が分からないという意味で『トレーニングブック』は初学者向けではなく、少なくともそれ一冊で完結できる本ではない。この点が、僕が勝手に名著と思っている『フィンランド語語トレーニングブック』とは異なる。

一通り読み通し、どうにも消化不良感が残ったため、手に取ったのが以下に挙げる二冊。一冊目は『スウェーデン語の基本入門から中級まで』。以前から気になっていた学習書で、三修社の当シリーズはどういう訳か日本ではマイナーな言語(他にオランダ語、ウェールズ語、チェコ語)ばかりを出ていて、統一感のある水彩画風の表紙が素敵なのだ。中でも本書は付属MP3音源が抜群に素晴らしく、音声ファイルがこれ程充実した語学書は(単語集などを除いて)見たことがない。文中で紹介される単語、用例文、その全てにネイティブの朗読が付く。発音に注意を要する単語もパターン別に並べられ、読まれている。その総時間は230分。スウェーデン語を始めたい人に真にお薦めなのは本書である。

もう一冊は『スウェーデン語 (世界の言語シリーズ12)』。大阪大学外国語学部(旧大阪外大?)出版のシリーズである。「世界の言語シリーズ」後半辺りから記述スタイルが統一されているようで(後日本屋で確かめてみたところ、スタイルはまちまちだった)。本書では各章の第一ページ目に文章が載り、次のページで新出単語や表現が説明され、残りの数ページは文法事項の解説やその言語特有の表現などに充てられる。文章はビョーン(Björn, スウェーデン語でそのまま「熊」の意味)一家の日常生活風景の描写である。当シリーズ各巻のボリュームは言語によってばらつきがあり、シリーズ中でも分厚い側の本書は解説がかなり詳しい。章始めの文章を読んでいて、何だか気になるなあと思う癖の有る言回しが出てくると、大抵はその後の文法解説部分で説明されていて、スウェーデン語に特徴的な言葉遣いであることを知る、といった具合だ。「スウェーデン語を存分に学べる一冊」と本書の帯に紹介される通りである。今現在僕の一押しの本であり、行きつけの書店付属の喫茶店で1,2章づつ読むのが日課となっている。なお、最初の一冊にするには少し(ほんの少しではあると思うが)ハードルが高く感じる可能性がある。

これ迄あまり気に留めなかったが、『世界の言語シリーズ』には他にも面白そうな本が幾つかある。例えばシリーズ3冊目の『モンゴル語』。初期のものなのでスタイルは上述と異なり、キリル文字とモンゴル文字(独特の縦書き文字)が併記されるのが特徴である。第10冊目の『デンマーク語』は『スウェーデン語』と同じスタイルで、やや上回る分厚さが素敵だ。そしてつい先月の初めに出版された第17冊目の『アラビア語』。「細かすぎる解説」を売りにするシリーズ中最大ボリュームであり、アラビア語の特徴を考えると僕の手に余りそうなので迂闊に手出しはできない。