宇宙人と出会う前に読む本

ほんのごく一部しか読んでいない立場で言うのもアレだが、僕が経験した限りでは、ブルーバックスの本で読書の楽しさを感じたことがない。周知のように中高生でも読める科学啓蒙書の新書シリーズである。科学一般に関心があり、かつ大部分の科学分野において中高生並みの知識しかない僕にとって興味の宝庫なのだが、少し砕けた教科書風或いは講義風の、知識を「与える」というスタイル(子供騙しとも言う)のせいか著者の人間性が見えて来ず、知識のために読むという「義務」的な読書感がどうにも楽しめないのである。なので普段はブルーバックスはチェックしない。

先日、いつものようにブルーバックスの棚を素通りしようとして、目の端に何やら気になる文字列が映った。こういう際の無意識の知覚は面白い。具体的にそれが何だか分からないが、僕の興味をひくだろうものを見たことだけは分かる。街中や特に書店でこういう経験がしばしばあり、何に気を取られたか分からず終いになることも多いのだけれども、今回はその対象がちゃんと分かった。表題書である。ブルーバックスなので少し警戒するものの、好奇心に押し切られた。

本書は地球人が宇宙人と出会う場面を想定して、この宇宙について常識として知っておくべき教養を解説したものである。また地球人が陥りやすい偏見も指摘する。例えば地球には太陽が一つ有るが、この銀河系では連星系の方が数が多いらしい。太陽が二つある二重星系から、最大で七重星系まで見つかっている。その様な連星系の特徴として、カレンダーがより複雑になる。あの三体人の母星では三体問題ゆえに三つの太陽の運行を長期的に予測することができないのだった。複雑ではあるが規則的な(三連星は例外として)天体運行を観測する結果、数学と天文学の発達が地球より早いだろうと推測できる。つまり、宇宙人の方から地球にわざわざ訪ねてくるとして、彼らの母星は多重星系にある可能性が高い。また、太陽系が形成されたのは46億年前、ちょうど宇宙の加速膨張が始まる直前であった。約100億年続いた安定期「物質の時代」の最末期である。宇宙が加速膨張期「ダークエネルギーの時代」に入ると恒星系は形成されにくくなると言う。因みに現在は「ダークエネルギーの時代」である。この意味でも地球の科学発展は銀河系全体の恐らく最後尾を走っていて、彼らの訪問(どんな形式であれ)を受ける側になるだろうと思われる。

著者の意見で興味深いものの一つに、現在の地球で一神教が優勢なのも地球が置かれた天体的条件、即ち太陽と月をそれぞれ一つ持つ点、が関係しているかも知れないと有ったが、これについては僕は少し懐疑的である。深く考えたことがないのでよく分からない。

もう一つ面白い指摘に、地球の生命に左右対称型が多いのは何故だろうというのがあった。「動物は左右対称型が多い」と言うべきなのだが、確かにどうしてだろう。能動的に動く動物として思い浮かべるのは、重力が影響するほど大型なら上下と前後に非対称、単細胞レベルなら前後に非対称である。生物の基本形は全方向に対象であり、重力など環境に方向性がある場合にはその軸方向に非対称になる(ことには意味がある)。思うに、デフォルトである対称性を左右方向に崩すのはコストがかかるだけで、意味があまり無いからかもしれないと思ったのだが、どうなんだろうか。上手く纏まらないので、整理するまで削除

ブルーバックスには科学に詳しくない一般読者でも読める程度の内容、かつある程度確かな情報を与えるという条件が課せられると思われる。僕が本シリーズをあまり楽しめないのはこうした抑制が効き過ぎているからでもある。著者が自由に思うままに書いたものを読んでみたいと思わせる、ちょっと面白いお話だった。