子供はわかってあげない

これまで道端の石ころだと思って関心を払ってなかったものが、思いもかけず珠玉であるのに気付くと、とても嬉しくなる。漫画は数多く出版されるし趣味趣向も多様で、目に留まったもの全てを読んでみることはとてもじゃ無いができない。何が面白くて何がつまらないかは人それぞれとして、つまらないものが大多数なのである。面白そうな漫画を求めて僕はマンガ大賞などのノミネート作品をチェックしてはいるが、たとえ上位にランクされた作品でも外れは有るし、その時の気分でスルーすることもある。表題作はマンガ大賞2015の第二位だが、緩い絵柄で完全に見落としていた。当時は緩くない気分だったのだろう。他のノミネート作品、『聲の形』、『僕だけがいない街』、『BLUE GIANT』で満足したのも大きな理由である。

何故今更表題作を手に取ったかといえば、緩い気分の今、今年のマンガ大賞の第四位である『水は海に向かって流れる』の予習にと思ったからだ。話は前後するが、『水は・・・』はイイものだった。重いテーマなのに胃にもたれない。言葉遣いや表現の端々が趣深く、読後に少しだけ幸福感を感じる、そんな作品である。因みに、ここで使う「趣深い」という言葉は、『スキップとローファー』第一巻で演劇部の部長が主人公の少女を一目見て言ったその言葉と同じ意味合いで用いている。多分。

同類の漫画として『めぞん一刻』と『麒麟館グラフィティー』が思い浮かんだのだが、年上の女性と年少の青年とが同居する設定以外、よく考えればそれ程共通点は無いかもしれない。前者は話が中々進展しないということ以外、あまり覚えていない。後者はかなり重いお話で、20年くらい前に文庫版全8巻を読み終えた時の疲労感は相当なものであった。その分感動も大きいのだが、一回読めばお腹一杯である。一方、『水は・・・』、というかこの作者の作風は再読したくなるくらい心地良い。

さて、表題作。最初に断っておくと、大したことは書けない。全体的にフワッとしていて表現に趣があり、センスがある。それだけで僕はもう本作を好きになっていたのだが、後半、こう書くのも気恥ずかしい「甘酸っぱさ」が次第に滲み出てきて、中年のオジサンは全く参ってしまった。あまり詳しく書くと興を削ぐことになるので、感心した個所を一点だけ。ヒロインが自身の気持ちが溢れそうになった時に見た夢に暴れ馬ジョニーが出てくる。そのジョニーが語る言葉が「言葉」の本質を突いている(様な気がする)。もう少し何か書きたい気分であるが、何も思いつかないので、後に追記するかもしれない。総評として、本作は「とてもイイもの」であった。こういう作品に出合うこともあるので、漫画漁りは止められないのである。

最後に、今年のマンガ大賞2021年の第一位も一巻目だけ読んでは見たものの、僕には今一つだった。個性のない設定で面白みが感じられない。第二巻目以降は何か変わるのかもしれないが。その作品タイトル名は書かない。