「その他の外国文学」の翻訳者

最近よくアマゾンプライムのトップで紹介されていた『鬼滅の刃 遊郭編』をちょっと前に観た。テレビアニメを観るのは久しぶりだったのだが、技術や表現手法の進歩は大したもので、映像の煌びやかさに驚かされた。音楽や効果音?も良い。この作品が例外的なのかもしれないが、こんなのを毎週30分枠で放送するのだから良い時代である。漫画は以前に何処かでサッと目を通したのみであまり覚えていないのだけれど、話はなんとなくついていけて(細かいところは勿論分からない、例えば寝ながら動いている子が誰かとか)、ようは何とかの呼吸を使って技を出し、鬼を退治するお話である。英語タイトルもシンプルに “Demon Slayer” となっていた。 的を得ているが、英題から元の邦題に到達するのはちょっと難しい。僕は桃太郎が真っ先に出てくる。

気になって仕方ない点が幾つかあって、会話と独白が無駄に長いのもその一つ。大半を切り捨てても映像だけで分かりそうなものだけど、原作に忠実ということなのだろう。ステレオタイプのコミカル表現がシリアスな場面に差し込まれる違和感も強く、その個所は馴染んだ世代しか楽しめないように感じる。これらはそういう日本の漫画文法に疎い海外の人にとっては猶更そうだろうと感じる。そもそも観ないかな。世代から外れる僕も、なんだか阿保らしいのでかなり飛ばし飛ばしで観た。前半の数話は観る必要もないので殆ど全部を飛ばし、後半の戦闘中心の場面だけ。不満を書いたけど、良いものを観たという感想であった。最終話の一つ前の終わり方(鬼の爆発から降灰でエンドロールになるところ)は最近一番感動したことの一つかもしれない。

さて、表題書。九つの「マイナー言語」の翻訳者へのインタビューを取り纏めたものである。マイナーとは言っても、ベンガル語やポルトガル語は日本語より話者数が多いので、日本であまり注目されない言語、という意味合いである。各章とも基本的な構成は同じで、それぞれの翻訳者がその言語を習得することになった経緯、習得の困難さや苦労、翻訳で心がけている点などが披露される。章ごとのつながりは無いのでどこから読んでも構わず、僕は最も気になったバスク語から目を通したのだが、その中にここで紹介しておきたい話題が出てきた。それは日本語の句読点の打ち方と助詞の使い方。「文章においてはそれが伝える意味に応じて、句読点を打てる位置は自ずと決まる。それがずれると、意味が曖昧になったり、日本語として違和感が出る。」「余分な助詞が付くと、原文の意味が効果的に伝わらなかったり、読みやすさが損なわれてしまう。」僕は結構いい加減に使ってしまうので、気を付けないといけない。このことは多分、なにも日本語に限った話ではない。

それにしても、句読点が無く、大文字小文字の区別すらない古代語(例えばギリシャ語、ラテン語、中国語。日本語もそうだっけ?)の原文読解は大変な慣れが必要なのだろう。面白い話題は他にも有ったのだけれども、全てを紹介するわけにはいかない。

ここで紹介しておきたい事柄がもう一つ。各章末には「翻訳で参考になる本」、「それぞれの語(例えばヘブライ語)を知るための本」や「おすすめの文学」が紹介してあり、これが嬉しい。中でも翻訳の参考書として数名が挙げている『耳のなかの魚―翻訳=通訳をめぐる驚くべき冒険』はどうしても気になったので、さっそく注文した。この「耳のなかの魚」とは何のことか、SF好きな人か、或いはイギリス人(アメリカ人も?)なら誰もが「ああ、アレか」とピンと来るだろう。文化・共通知識の違いから元の意味合いが伝達できず、なんだか面白そうだけれど意味が分からないかもしれない題名になった、という例であった。この「魚」が何のことかは、その本を紹介する折にまた。