ボタニストの殺人

風邪を引いてしまった。先週の金曜、寝床に入って本を読んでいると、喉の奥がどんどん痛きなってきて、翌日からは微熱も出た。症状が重くならないようなので、週末は軽く運動してからずっと本を読んで過ごす。以前購入した、「このミステリーがすごい」にランクインした『ウナギの罠』を先ず手に取るが、導入部分がダラダラと面白くないので10ページも読まずに放り出す。同じくランクインした『死はすぐそばに』も同様に中断。そこで読み出したのが『ボタニストの殺人』であった。

内容はストレートで良く制球されたミステリーである。一見して不可解な毒殺事件の謎を解き明かしていくのはシリーズの主人公である捜査官ポー。彼をサポートする分析官ティリーは世代に一人の天才であり、子供時代から大学で数学の研究に人生の大半(多分30代?)を費やした。それゆえソーシャルスキルが身についておらず、いわゆる空気が読めない。それでも余人をもって替えがたい頭脳は同僚達から一目も二目も置かれている。そして彼女の分析を総括し、解決の糸口を見つけるのはポーの直感力である。この二人の掛け合いが先ず楽しい。シリーズ第5作目だけど、人間関係は分かり易いので置いてけぼり感は無い。

以下の2作も含めて物語展開はポーの行動を追った一本道であり、脇道に逸れることがない(と思う)。各章の最後には次に起こる展開の方向性が予告され、続く章は冒頭からその通りに始まる。なので筋を追いやすく、圧倒的に読みやすい。まるで川沿いのウォーキングコースに沿って目的地に向かっているようなものである。徐々に謎が解き明かされていく面白さもあって、決して退屈にはならない。こうした点が、普段よりも集中力や根気に欠ける体調に見合った。雪を背景にした密室事件の解決には納得行きかねたが、全体としては本の方からグイグイと牽引してくれる、楽しい読書であった。

シリーズの第5作目が気に入ったので、遡って読むことにする。先ずはタイトルに惹かれた第3作目『キュレーターの殺人』。切断された2本の指が謎の文字列と共に発見されるという事件が3件発生し、ポー達が捜査するという話である。第5作目と比べるとやや小振りの物語展開という印象を受けた。

次に読んだのが第2作目の『ブラックサマーの殺人』。高級レストランのシェフが娘殺害の容疑で逮捕された。その六年後、殺されたはずの娘が現れ、シェフが釈放される事態となる。彼の有罪を確信するポーは、再調査を余儀なくされる、という内容。上の2作と異なり、今回は犯人ありきの状態から始まる。有るか無いかの細い糸を見つけ出し、それを辿っていくという捜査の描写に緊迫感がある。読んだ3作品の中ではこれが一番面白かった。5点満点中の4.5(端数を入れないなら4)点。次いで『ボタニストの殺人』の4.5。もう一つは4。残りの2作品、第1作目と第4作目はどうしようかな。今回冒頭で投げ出した2冊も一旦話に乗れれば面白い筈なので、その内に再開したい。そして何故だろうか、本作でだけ、途中3か所で記憶の奥を突っつくように僅かな既視感が湧き上がった。一回目は冒頭の方だったので、読んだことあったのかな、と疑念が過ったのだが、最近の本なので既読であればもっと覚えている筈である。

2025年はモンゴメリーの生誕150周年だそうで、『赤毛のアン』の新アニメも来年から放送されると聞いた。そこで僕も久しぶりにAudibleで聴くことにする。”Anne of Green Gables” は多くのバージョンが出ていて何も安く手に入るので僕もその内の6,7くらいを持っているのだが、最も好きなのは Barbara Caruso が読んだものである。抑揚を抑えて落ち着いた声と、声だけで誰の発言か分かる読み分けが素晴らしく、この人の朗読でシリーズ全8巻がカバーされているのが嬉しい。”Anne of Green Gables”に続いて第2作目の “Anne of Avonlea”(『アンの青春』)に進む。朗読版は初である。

映画版『アンの青春(続・赤毛のアン)』は80年代末(だったかな?)のカナダ制作の実写映画で、当時妙に気に入って何度も繰り返し見た。しばらく後に原作も読もうと思い、何故か『アンの愛情』を購入し、全然違うなあと思いながらも十分堪能した。読んだのは調べたところ篠崎書林版で、アンとは関係のない短編集(『ルーシーの約束』だったような)も同時期に読んだ。どうやらこの3作品の記憶が混線しているらしく、さらに映画版は原作とも異なるらしいので、”Anne of Avonlea” は期待したものと違って知らない場面ばかりであった。

第3作目『愛情』の原題は “Anne of the Island” である。アンが成長し、活動の幅が広がるにつれて、「グリーンゲイブルズの」アンから「アヴォンリーの」、「プリンスエドワード島の」と、アンが背負う地域も広がることがタイトルに表れている。今回僕が聴くのは、取り敢えずは “Anne of the Island” までかなあ。