人類の起源

5,6年ほど前、ホモ・サピエンスの別種が人と交わったという趣旨の本が立て続けに出ていたのを覚えているが、それはどうやらネアンデルタール人をはじめとする化石人類のほぼ完全なDNA情報を骨から読み取ることができるようになるDNA解析技術の向上が2014年頃に得られたからであるらしい。DNAは時間とともにランダムに変異を蓄積し、同一の変異がもし互いに隔離された集団間に見つかるとすれば、それらの集団はその変異を獲得した共通の祖先から分化した可能性が高いと考えることができる。変異が蓄積する速度の凡その値とDNAの類似度から分化の時期を大まかに推定できるというわけだ。逆にもしある集団で独自に蓄積したDNA変異が別の集団内で見つかるとすれば、それらの集団はどこかの時点で交雑したと考えることができる。その変異が交雑に由来するかどうかは、分化したと分かっている時期以降のDNAを比較すれば分かる。ある纏まった変異がある集団内に突如見つかるようになったとすれば、それは外部から取り込んだ可能性が高いのである。そういった具合に、人類の分化と分布の推移が驚くほど詳細に(仮説として)分かってきたのである。(僕にとっては驚くほどだけど、それは僕が最新の常識に疎いから。)

研究が進んでいるヨーロッパでの人類の分布はなかなか面白い。ストーンヘンジなどの巨石文明や、漫画『マスター・キートン』で出てくる、ケルト以前の地母神(白い女神だっけ?)を崇拝する人々がどういう由来なのか、おぼろげに浮かび上がってくる。ヨーロッパといえば色白碧眼だが、それらの変異の由来にも言及される。本書で最も面白いと思うのは、DNAから分かるヒトの分布推移と、言語族の分布推移を結び付けている点である。言語の変異はDNAよりはるかに速く、1万年も遡ると類似性が解析できなくなるらしい。そこへ1万年前以降は考古学資料(骨、遺物など)が増えるのでDNA解析が役立つそう。一方で骨からDNAを解析するのにも限度があって、100万年以前は化石の量も少なくて良く分からないらしい。本書は2021年の論文まで引用しているので、ヒトのレキシ(他にいい言葉が思いつかないが、歴史ではないので取り合えずカタカナで)の最新知識を知りたい人にはお勧めである。

最後に一つだけ、種(生物種)とはイイカゲンな概念である。ヒト、ネアンデルタール人、デニソワ人など一応別種として一般的に考えられているが、本書を読めばその分類、分類基準が曖昧であることが分かると思う。その曖昧さの上に成り立つ人種などは言うまでもない。