石が書く

今読みたい本にフランク王国(ゲルマン人の一派、フランク人の王国)の歴史本があるのだけれど、全3巻刊行予定中の現在2巻まで出ていて、それぞれが約8千円の値段であった。趣味・娯楽の本としてこの値段帯で僕が購入に踏み切れるのはせいぜい図鑑か辞書・語学書くらいで、さすがに手が出せないでいる。一方で財布の紐を緩めてつい買ってしまったのが表題書。こちらも安くはないのだけれど、その書架付近に行く度に気になってしまう本であった。中身の方はというと、著者自身が所有する鉱物コレクションの写真と合わせて著者の思うところが書いてあり、ただの石の模様によくもまあこれ程書くことが有るものだと感心する。その半分くらい(3分の4くらいかも)は意味が分からない。それでも、持ち歩いて暇があればパラパラと捲るような読み方で実に楽しめた。

美という感覚は自然の構造物など何らかの造形やパターンの経験に基づく想像力を源泉にしていて、想像力が喚起される模様が現れる鉱物(の断面)に人は美を感じる。そういう標本は寧ろ稀であり、その希少性ゆえの美ともいえるのだが、本来鉱物の描く模様は、一方でその構成原子・分子の規則的配列を基に形成されつつ、それが育成された地殻内の偶然的な力学作用から来るランダム性を閉じ込めることで、人が美としての想像力を得ることができる範疇を遥かに超える造形を表現する。人の経験の枠外に在るそうした造形の中にも、例えば色彩的配置や、経験との僅かな足がかりを得て美を獲得するものもあり、これが新たな経験となり、美の源泉となりうる。この自然の造形と美との、想像力を触媒とした入れ子構造に眩暈がする思いであった。何を書いているのか分からなくなってきたのでこの辺で。

現在Audibleで聴いているのがコレ。ネオ・ダーウィニズム(生物進化は遺伝子のランダム変異の積み重ねと自然淘汰のみで起こる、とする説.多分)を批判した内容で、分子時計などから推定する系統樹はトポロジー的に樹とは程遠く、ネオ・ダーウィニズムではカンブリア紀の多様性大爆発が説明できない等など。因みにこのカンブリア期には、単に体の模様や大きさなどの表層的な次元の多様性ではなく、生物体の構造そのものの多様性が爆発した。”ファイラ” レベルの多様性と言っているので「門」かな。門の次元で分類されるのは例えば脊索動物(魚、哺乳類など)、節足動物(昆虫、カニなど)、被子植物などがあり、これらの現在まで生き残っている「門」はその爆発時に発生した祖先の内のごく一部である。本書は2014年出版とあったので日本語訳が出ていても良さそうだけれど、見つけることができなかった。