しっかり身につくラテン語トレーニングブック

ペットにどこまで名前を付けるだろうか。一年半ほど前、ヘビを飼い始めた頃はフィンランド語を中断して間もなかったのでまだ単語を幾らか記憶しており、一匹目のカリフォルニアキングスネーク(黒地に白のストライプが一本という柄)にフィンランド語でブルーベリー(mustikka、ムスティッカ)などと名付けていて、その後も増えるたびに何かしら名前を与えていたのだが、暫くすると「おい」「おまえ」としか呼ばなくなった。「おまえは可愛いなあ」などなど。もちろん独り言である。爬虫類飼育youtuberのように人に見せるわけではないので、要は僕が個体を識別できていれば良い。去年夏以降に購入した北米ラットスネーク達にはもう名前を付けておらず、「おい」と呼ぶとき頭の中にはその個体の個性を反映した何かしら靄っとしたものを思い描いていて、これが言葉が形になる以前の状態なのだろう。名前を付ければスッキリするけど、この靄が消えるのが惜しいのでまだ付けない。その内に自然発生的に固まるのだろう。そういえば、先述のムスティッカ君は頭の中ではより簡単に「クロ」と呼ぶようになった。

そうした経緯?があって、フィンランド語は僕にとって何となくブルーベリーの印象が強い。大好物で、スッキリした素朴さが似ているという理由もある。僕のもう一つの大好物はワラビ餅なのだが、これは以前に海外で生活した際、無性に食べたくなった唯一の日本食であった。でもよくよく考えると、黒蜜を掛けるタイプはそれほど好物でもなくて、ワラビ餅というよりはキナコが好きなのである。その素朴で味わい深い印象に、ラテン語が重なるのだ。ラテン語を続けるほどにその印象を深めていて、要するに僕はまだラテン語に嵌っているのである。

表題書『しっかり身につくラテン語トレーニングブック』は以前にも紹介した『しっかり学ぶ初級ラテン語』をベースにした問題集で、対象読者は後者を一通り読んだか相応の基礎を知っている人となる。『しっかり学ぶ…』では入念に解説された文法事項は本書では殆ど説明されず、主に格変化の問題がヒントと共に並ぶのみ。章立ては『しっかり学ぶ…』と共通で、問題文の大半はどこかで(もちろん『しっかり学ぶ…』で)見た覚えのあるものが並ぶ。これはとても理にかなっていて、例文を覚える行為は外国語学習の重要な要素なのだ。一方で、『しっかり学ぶ…』の方をしっかりと読み込むならば、表題書は不要とも言える。その為かどうか、2015年の出版でありながら、現在は絶版になっているようだ。本書もそろそろ読み(解き)終わるので、次にどうするか物色している最中である。

ラテン語を眺めていると、英語やフランス語で普通に使われる表現に随分と似ていることに気が付く。もちろん、ラテン語の方が基に在る。そして日本語でも現在当たり前に使われる、例えば「(何々)の中の一つ」と言った少し持って回った表現は英語(だったかな?)に由来すると聞く。道理で日本語として違和感があるわけだ。由来元の英語の方も、フランス語か或いはもっと遡ってラテン語あたりから拝借しているのだろう。もっともラテン語もギリシャ語など周辺の先進文明の言語から多大な影響を受けている筈である。そのギリシャ語も文明の初期、トロヤ戦争より以前、ミュケナイがヒッタイトに反旗を翻したころには知識や物の交易が広く中近東・地中海地域でグローバル化(字義どおりの地球全域規模ではないので広いローカル化かな?)していて、周囲の先進文明から影響を受けつつ形成されたと思われる(この辺は僕は余りに物を知らないので曖昧な言い方しかできない)。何が言いたいのかと言うと、言語表現のグローバル化の流れに気付かせてくれる、ラテン語はそういう言葉なのだ。