世界の終わりの最後の殺人

少し未来の話。生物を殺す霧が世界を覆い、人類は絶滅に瀕した。唯一ギリシャの或る島でのみ霧の侵入を防ぐシールドが張られ、ここに避難した百数十人が最後の生き残りとなった。島では楽園的な生活が営まれて数世代が経つ。一般の村人は島のどこかに有る研究所の中枢AIと脳内で会話することができ、60歳になると安楽死を受け入れる。そして減った人数分だけ子供が補充される。次第に舞台設定は明かされていくのだが、何か要となる情報は村人と読者には伏せられたまま。事の次第を全て知るのは、科学技術によって老化を受けることなく大災害前から生き続ける科学者3人(長老)とAIのみである。そして或る時、科学者3人の中でも中心となる人物が殺害される。彼女の死と同時に霧を防ぐシールドが落ち、再起動するには犯人を捜す必要に迫られる。残された時間は二日弱。

本書の良かった点を挙げると、少しずつ開示される情報を基に、ああかな、それともこうかな、と要素を結び付けて推理する過程の面白さ。SF的設定が根底にあるので、いろんな可能性を思い描いたのだが、その真相は本書の雰囲気も含めて好みなものであった。読んでいる最中、幾つかの場面で『風の谷の・・・』漫画版が頭を過った。これは僕だけではないと思う。著者が意識したか間接的に影響されたか、はたまた偶然の類似かは知らないが。