BUTTER

面白かった。物語の核になる事件の容疑者が冒頭から出てくるが、話の展開はどうやらサスペンスやミステリーの様ではさなそう。この先どう進行するんだろうかと、予想が全くできなかった。帯か何処かに書いてあった「社会派小説」というカテゴリーにピンとこなかったものの、一旦読み始めてみれば、現代社会における女性の価値観への問いが太い芯として一本通っていて、なるほど社会派と言うに相応しいと腑に落ちた。
サスペンスやミステリーではないとは言え、退屈さや中弛みは一切感じず、常に緩く緊張の糸が張られたかのような心地よい読書感である。何より読みやすさに脱帽である。これには、物語の本流を追う上で詳細まで知る必要のない出来事の描写を簡潔に済まし、物語内時間をさっさと前に進める「時間管理」の上手さが効いていると思う。私的な難点を挙げるとすれば、描写が丁寧過ぎると感じた部分が結構有った点。もう少し曖昧さを残しても個人的には寧ろ好みだが、だからこそ最後まで明かされず仕舞いの部分、また終盤の説明されずに残った個所が印象的なのかもしれない。
妙に気になった点が一つ。主人公の女性は最終的に体重が59kgとなり、「だらしない体型」と言う声を自身も受け入れているのだが、身長が166cmであることを考えるとそんなに太っているだろうか。BMIで確かめてみると、適正体重より約1.5kgだけマイナスと出てくる。粗適性の僕などは一層だらしないことになるではないか。

読もうかどうしようか迷っていた『蘇我氏』、結局読んだ。Kindle版で買うだけ買って、長らくほったらかしていた内の一冊である。なかなか興味深く読めたが、後半は次々に提示される情報を一々追うのが面倒になり、斜め読みで済ませる。大王家とミウチ関係を形成した蘇我氏の一族は、『乙巳の変』で唯一のオオマエツキミ(大臣)家という地位を失って以降もなお、社会的な地位を低下させながらも中世まで続いた。これに取って代わった藤原氏も、当初は蘇我氏と婚姻関係を幾重にも結んで高貴な血を一族に導入した、と言う話。こうなると同著者の『藤原氏』も読んでみたくなるが、残念なことに未購入なのである。頭の隅に置いておこう。