ローマ帝国の誕生

僕にとっての必読書を読んだよ、という報告。本書が出ると知った時は、古代ローマについての一般書がまた出るのか(嬉しいけど)、という印象を抱いたのだが、著者の見解はどうやら違ったらしい。「広く専門外の読者にローマ帝国形成の歴史に焦点を当てた書物が近年あまり見られないことはたしかである」、「帝国形成期を主題とする新書・文庫は一番新しいものでも、20年以上前に出版されたものなのだ」。

そもそも古代ローマの歴史解説書で、その長い歴史の前半部分を主題とせずとも取り扱わない一般書は、有るかもしれないけど僕は知らない。主題を限定して独自性と出版意義を出そうとする専門家精神、決して嫌らしいとは思わないが、新書で押し出す必要は有っただろうか。恐らく同業者を意識した著者のボタンと対象読者のボタン穴は微妙にズレると思われる。面白いから多くの人に知ってもらいたくて書いたよ、動機は本来これで十分であろう。

前書きの口上は後々まで引っかかったものの、内容自体は中々面白い。特にヒスパニア(イベリア半島)の属州化とその後の経緯が詳しく解説されており、勉強になった。類書と異なりこの部分が詳細なのは、帝国の形成がここから始まると著者が考えるからである。つまり紀元前2世紀中ごろより、都市国家ローマは属州の総体としての帝国へと変貌していく。

宮城谷の古代中国小説は最近出た数冊を除いて粗方読んだと思っていたが『介子推』が抜けていた。個人の生き様に主に焦点を当てた物語は、僕が宮城谷小説に求めるものとは少しズレるので、ちょっと物足りない。これまで読まなかったのはこれが理由だろうな。黄な粉が食べたくて蕨餅を頼んだら黒蜜のみで出てきた感じ。