台所から北京が見える

ついこの前、映画『スラムダンク』をやっと観てきた(まだ上映していた)。話には聞いていたが、アニメーション技術の進歩はスゴいものだね。あれほど激しく画面内を動き回る選手の動作の一つ一つが滑らかで、10年程度前に観たアニメ映画(バケモノの子、だったかな?)で感じた、グニャグニャした不自然さは皆無だった。漫画の一コマであろう描写が時間経過を中断しないように画面端の方に描かれている箇所もあり、リョータを中心に据えるアレンジも見事の一言。その後なんだか急に漫画『バガボンド』が読みたくなり、僕が最も好きな第21巻だけ古本屋で探し出して購入する。清十郎との決闘の場面は傑作だと思う。

その『スラムダンク』以上に感心したのが表題の『台所から北京が見える』。著者は未だ幼くて世話の焼ける息子二人の世話をしながら、ふと将来に不安を感じる。その子達が自立した後に、抜け殻のようになった自分の人生には何が残っているだろうか。ある日この不安を新聞の人生相談に投書したところ、紙面に採用され、なにか打ち込める趣味を持つのが良いと返答を得た。例えば語学とか。趣味で生活を犠牲にしまいと自身に誓った彼女はこの期待を抱えたまま、息子たちに手が掛からなくなるまで子育てと家事に専念する。そして人生相談から10年後、36歳の彼女はいよいよ語学に取り掛かる。子供時代を中国で過ごした夫の勧めもあり、言語は中国語を選ぶ。未だ日中国交正常化前であり、中国語を学ぶ人は殆ど居ない時代であった。

そこからの彼女の中国語に対する姿勢には感心せざるを得ないのだが、詳細は本書を読んでいただきたい。家庭の生活費を自分の趣味に使いたくない彼女はパート仕事をしつつ看護学校に通い、看護師の資格を取得する。同時にガイドと通訳の資格試験にも受かった丁度その頃に日中の国交が回復し、中国語が活躍する舞台が一気に広がるのであった。

もう一冊面白かった語学エッセイが『砂漠の教室: イスラエル通信』。こちらはユダヤ人を夫に持つ著者が、夫婦で6ヶ月間の現地語学コースで勉強した際のエッセイとその後日談。教室内外で出会った人々との交流や出来事が中心で、著者の事物を突き放したような(達観したような)視点が面白い。こちらに関してはまた後日、気が向いたら。

さて、僕の語学の方は相変わらず。フィンランド語は時折『フィンランド語の世界を読む』を読んでおり、僕にとって心が安らぐ時間である。僕が知っている語彙の少なさもあって、進歩度合いはやはりドイツ語やスペイン語辺りのとっつき易い(語彙的にも文法的にも)言語よりは随分と時間がかかる印象。そのフィンランド語より2段くらい難しく感じる古典ギリシャ語は、正直なところ少し疲れた。今月から来月にかけて白水社から面白そうな語学書が幾つか出ることもあり、暫くは離れる気持ちになっている。面白そうな本とは、例えば『ドイツ語古典文法入門』。ちょっと気になるタイトルじゃないですか?