ムーア人による報告

文句なしに面白い。ややもすれば退屈感が滲み出やすいテーマの物語ではあるが、安易な俗っぽさに傾くことなく、読者の関心をギュッと引き付けたまま、リアリティを保って見事に描き切った著者の「語り」が素晴らしい。

歴史的事実として、ナルバエス率いるフロリダ探検隊は1528年にアメリカ大陸に上陸し、黄金を求めて内陸へと探索に出る。その途中に一行は遭難し、8年の放浪を経て4名の生存者がメキシコのスペイン領に辿り着く。うち3名のカスティーリャ人貴族による報告書が残されている(以上、あとがき参考)。4人目の生存者はアラブ系黒人奴隷。この黒人奴隷の視点から語られる架空の放浪記が本書となる。フィクションとはいえ、歴史の虚偽を穿つ真実味があると思う。

今年これ迄読んだ本の中では一番面白いと感じた本書であるが、首位の座は直ぐにも更新されるかもしれない(願わくば)。というのも、今月末には各文学賞を総なめにした『ジェイムズ』(ハックルベリー・フィンを黒人奴隷ジムの視点から語り直した小説であるそうな)の翻訳が出版されるからである。その前に、この年まで未読で来てしまった『ハックルベリー・フィンの冒険』を読んでおかないと。

前回の読書会でフランス語の話がチラッと出た。もう10年以上も触れていない言語ではあるが、どれだけ頭に残っているんだろうかとふと気になって、kindleライブラリーに入っていた『星の王子様』の冒頭箇所をチラッと眺めてみると、結構読める。もちろん内容を多少は知っているからである。でも動詞の活用などすっかり忘れてしまっており、良い機会なのでお浚いすることにした。いつかは原語で読みたいと思っている(思っていた)ものがkindleで安価に見つかるので、ある程度慣れておいて損はない。なんで学習を中断したんだったかな?敷居の低い言語なので、何時でも再開できるだろうと思ったのかもしれない。

参考書等は殆ど売ってしまったらしく、気分新たにペレ出版の『本気で学ぶフランス語』を使うことにする。他と比較してどうか分からないけど、音声ファイルが充実しており耳で覚えるのに中々良い。続編?の『中・上級』は例文中心で内容が薄いと思う。フランス語に関しては、良い学習動画がyoutube上に大量に転がっており、教科書を買う必要は無かったかも。

先週末から読み始めた”Uno, nessuno, e centomila”(日本語に訳し辛い、諦めて機械翻訳では「一人、誰も、そして10万人」) が面白い。ある日ふと、自身でも認識していなかった顔の特徴を妻から指摘され、以来自己のアイデンティティに疑問を抱くようになる男の話である。いまのところ。百数十ページ程度の薄い本ではあるが、例によって辞書を引きゝ週末のみの読書なので中々進めることができないだろうし、はたして今年中に読み終えられるのだろうか。それともその前に投げ出すことになるか。