バベル オックスフォード翻訳家革命秘史

久しぶりに音楽で衝撃を受けたことについて。つい先日、年始休み中に観たアニメ推しの子の、エンディング(二つ目の方)の入り方がカッコ良かったなあと思い出し、youtubeで検索して何度か聴いていたところ、多分これに関連したのだろうと思われるある楽曲がお勧めに上がって来た。某テーマパークの一昨年のハロウィンイベント用に制作されたと書いてあった(間違えていたらすみません)その曲、初視聴時には、何だか忙しくて好みではないなあと聴き流したのだけど、妙に気を引かれるものが頭から離れなくて後日もう一度聴いてみた。そしたら突然ハマった。3分台の短い楽曲の中で色んな要素が目紛しく展開し、見事なパフォーマンスと相まって暫くの間虜になった。こういう驚きは10年以上前にシベリウスのバイオリン協奏曲を聴いて以来。しかし三日間ほどの間繰り返し聴いていると、なにぶん短い曲なので直に飽きてしまった。推しの子のオープニング曲(一つ目の方)にも少し驚いたが(視聴回数の面でも)、そちらは単調さの為に飽きるのがずっと早く、衝撃という面に於いてもこちらの方が上かな。世間で流行した(?)ものに一年以上の遅れで追いついた、という話。それだけ。
さて『バベル』である。時代は19世紀の初頭。ある言語の単語を別言語に翻訳すると(例えば「drive」と「運転」)、意味にズレが生じる。そのズレた意味に応じて、ある種の魔法のような効果を銀から引き出すという「銀工術」が研究されていた。この技術を独占するのが大英帝国であり、その中枢機関はオックスフォード内にあるバベルと呼ばれる塔であった。バベルでは世界各地の語学に優秀な若者を毎年ごく少数ずつオックスフォードに入学させ、専門的な語学教育を施していた。物語の主人公であるロビン・スウィフトも、10歳の頃(?)に広東で死に瀕していたところをバベルの教授に拾われ、イギリスでギリシャ語とラテン語の教育を仕込まれた後、バベルで厳しい大学生活を送ることになる。

学生生活を中心としたファンタジー物は、最近Audibleの方で頻繁に見かけるようになったなあと感じていたが、結果的にせよ本書もその流行に乗ったうちの一冊だと思われる。その源流が何処になるのかは僕には分からないけど、ハリーポッターシリーズが直接の上流に在ることは間違いない。そのハリーポッターと比べると、本書はより知的である一方、感情移入はし難く感じる。恐らくは作者の知性や理念が先行した為に、知的刺激と情緒的刺激のバランスが釣り合っていないのかも知れない。物語を建造物に例えてみるなら、設計図は物凄く良いものの、仕上げが荒くて所々壁が塗られていないまま残っている、という感じ(あくまで個人的な見解です)。本文の中で消化しきれない設定を注釈として付している点に関しても面白いと感じる一方、物語としての未完成さだとも思う。針金で体をきつくグルグルに縛り付けられていくような息苦しい展開も純粋に楽しいと思えなかった理由の一つではあるが、こうした緊迫感については単に個人の好みの問題である。面白さを5点満点で採点するなら、4点のど真ん中。楽しさと言う意味では甘めの3点。独特な設定のファンタジー小説だった。
次に読むSFは、少し間を空けてから、『無限病院』か『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』辺りかな。