精霊を統べる者

「SFが読みたい!」今年版の海外編一位の本書。舞台は19世紀(だったかな?)のエジプト、精霊(ジン)と人間が共生する世界である。精霊の存在によって国際情勢が現実の歴史からは異なり、エジプトは西欧列強を退けて世界で最も繫栄する国の一つとなっていた。そんな社会を覆そうとする陰謀に、精霊関連の犯罪を取り締まる女性捜査官が挑むという内容である。

個人的な感想は、手放しで賞賛することはできないけど…、と言ったところ。先ず面白いと思ったのは、まるで前作が有ったかのように、折々に前日譚が仄めかされる点。これは物語に奥行き(トールキンについて語った或る本の言葉を借りれば、「味わい」)を与える。物語の展開は不自然さが無く、良く練られていると感じた。そして、次の点は長所と短所が表裏一体ではあるが、物語描写がとてもカラフルかつダイナミックで、視覚的要素に溢れている。映画化すれば、多分そういう話が進んでいると思うけど、さぞかし映像映えるんじゃなかろうかと読書中常に思っていた。正にこの点が、僕がSFやファンタジーに求めるものではないので、不満だった要素でもある。点数を付けるなら、一寸甘めに5点満点中の4点。少し待って古本で購入すれば良かったかなあという読後感であった。

『バベル』。20時間を超えるAudible版が中々進まない。昨夜、折角購入していた上巻(もちろん日本語版)を試しに読んでみると、当然ながら読む方がペースが速く、通勤時間数日分の半分以上を進む。解像度も聴き流しと比べるとずっと高く、幾つかのプロットを聴き逃していたことに気付く。この物語は読んだ方が楽しいかもしれない。好きなテーマを物語の核に置いていることも相まって、引き続き本で読むことにした。Audibleの方は、同じ内容を並行して聴くよりは、随分前にダウンロードしたもののほったらかしにしていた “Rendezvous with Rama” (アーサー・C・クラークのSF) 辺りが丁度良いような気がする。

『対訳 ドイツ語で読む「魔の山」』は『魔の山』原著を険しい山に例えた、登山ガイドブックという位置付けの入門書である。収録文章は本家の色んな個所から抜粋された原文そのままに、収録量は全体の1%位だろうと思われる。最初の内は和訳を参照しなくても結構読めるもんだなあと進めていくと、突然何時までも完結しない文が現れ、どう読解したら良いのか分からなくなったりする。なかなか難しい。原著に挑んでみようかどうしようかとamazonを検索してみると、本家を20%に縮約した要約版というものが結構安い値段で出版されていた。もう一寸慣れたらそちらから読んでみよう。日本語訳は高校時代、もう30年も前に一度読んだきりで、内容は殆ど何も覚えていない。すこし驚いたことに、幾つかの場面では読んだ時の「感じ」、靄っとした掴みどころのない印象、が湧き上がってきた。