夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く
こんな人が居たのかという軽い驚きと共に読んだ。著者の辿った道程は威圧的なものでは決して無く、条件さえ合えば、その轍に乗れば多分誰でも、それぞれの仕方で辿ることが出来るであろうと思わせる程に親近感がある。本書を読んだ限りでは、彼女の経験は日本人には稀なものであり、狭くてとても濃い。そういう驚きであり、羨ましさであった。
語学を趣味とする母親の影響を受け、著者も高校一年の秋に英語以外の外国語を何か始めたいと思い立ち、母親の勉強する言語(ドイツ語、スペイン語)を避けてロシア語を選ぶ。そうしてロシア語にのめり込み、ロシア語学校を経てペテルブルグへ語学留学する。そこで文学に集中したいならと強く勧められたロシア国立ゴーリキー文学大学に入学する。この大学は一般の総合大学とはやや異なり、ロシア人民の思想を形成し育成する礎である文学に携わる文士を育成するための大学であった。卒業者は文学従事者という学士資格を得る。この大学で彼女は文学の勉強に没頭し、素晴らしい経験をする。そして批評史の講師である恩師との交流はなんと言えば良いのだろう、著者は明言を避けていたように思えたので、僕も言葉を控えたい。
2025年版「このミステリーがすごい」の国内編でダントツ一位に挙がっていた『地雷グリコ』も読んでみた。高校一年生の女の子が、入学した高校で繰り広げられる、一風変わったゲームで対戦する、という小説。ゲームはタイトルにもあるグリコ(ジャンケンの勝った手で進むやつ)やジャンケン、ダルマさんが転んだなどお馴染みの単純なものだが、ルールが一捻りしてあり、本質的に頭脳戦・心理戦となる。いやー、楽しい。よく考え付くものである。面白さは5点満点中の5点。欠点は、欠点と言えるかどうか怪しいけど、何か良い小説を読んだという満足感が薄い点。先の展開が気になりつつページを捲る漫画の読書?感覚に近い。読書の充足感を得たいなら、2点。ミステリーとしてなら、2年ほど前に出た『君のクイズ』の方が面白いかな?
海外編の方で上位に挙がった『ウナギの罠』と『両京十五日』も同時に購入するが、読めるのはもう少し先。
歴史小説は合わなくなってきた、と言いつつも宮城谷昌光の『張良』を読む。著者の、起伏に乏しくて淡々とした、感情が動かされない叙述は好みで、心静かに読み進められる。好きではあるが、面白さは可も無く不可も無い程度。序盤の韓が衰退し滅亡する場面で漫画『キングダム』の武将の絵面が頭に浮かんだのだが、あの絵に漫画外が侵食されるのは少しショックであった。