宮沢賢治の真実 ―修羅を生きた詩人

著者が賢治全集再読の際に出会った、とある文語詩の冒頭の一行、
《猥れて嘲笑めるはた寒き》
からこの探索は始まる。

「猥れて」はどう読むのか。「嘲笑める」は。 詩そのものも難解であり、また全体の印象は異様である。世界の幸福を願う聖人君子然とした賢治とは異なる、著者の知らない賢治がそこに居た。これまで誰にも取り上げられることのなかったこの異質な詩をどう解釈すればいいのか、この謎解きに著者は三年を費やす。そして謎は謎に連なり、計六年に及ぶ追究の末、著者は「銀河鉄道の夜」に辿り着く。

著者の追究は徹底している。賢治の原稿を下書きから念入りにチェックし、それが書かれたのは何時か、その日の天気はどうであったか、その日賢治は何をして、その目には何が写ったのか。賢治の足跡を辿って一つ一つを確認する。そして、《猥れて》と同じ出来事を扱ったと考えられる口語詩、「マサニエロ」を見出す。これら二つの詩を解題する鍵になるのは妹とし子の恋、彼女の失恋とスキャンダルであった。この同じ頃、賢治自身も決して実らない「恋」の真っただ中にいたので、妹の悲しみには気づかない。とし子が喀血し、病室で過ごすようになって漸く賢治は妹が自身の内面を綴った記録を読み、彼女の抱く悲愴を知る。そしてとし子の死。賢治の慟哭は声にすらならない。私は死んだら地獄に行く、と書いたとし子の魂の行方に対する憂患が、その後の賢治の創作活動の底流にあった。とし子の死後に樺太への旅を詠んだ「青森挽歌」以来、賢治はとし子を探し続ける。

そして『銀河鉄道の夜』が書かれる。謎の多い作品であるが、その一つひとつを著者は丁寧に解き明かしていく。カンパネルラは誰なのか(著者の説では、とし子ではない)。「青森挽歌」。その他、一切の説明なく登場する物事など。その果てに、賢治が「銀河鉄道」に密に埋め込んだもう一つの物語が見いだされる。賢治は、自分が書いているものは詩ではなく「心象スケッチ」であることに拘った。そして童話もまた心象スケッチであった。物語中に登場する色んな事物も、理解してもらうための配慮などなく、全ては賢治の心の中だけに有るものなのだ、と著者は書く。己自身のための創作。賢治はそれを純粋に、極限まで追求した果てに普遍に届こうとする。それが心象スケッチである。『銀河鉄道』は極めて個人的な「企み」であった。とし子はこの物語のなかに居場所を得る。何処に居るのかは、ここでは控える。

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