ラテン語の世界―ローマが残した無限の遺産

近ごろ嵌っているのがラテン語。ツールドフランスを観戦しながら何かパラパラと読むものとして、以前にも少し紹介したアラビア語の、大阪大学出版の教科書を当初は考えていたのだが、アラビア語は、あるいはあの教科書はちょっと集中力を要するので、「ながら読み」には不向きであった。アラビア語自体にも少し疲れている。そこで何かまだちゃんと手をだしていない、もっと負荷の少ない言語はないかと書店を一覧して目に留まったのがラテン語であった。

紹介順は前後するが、下に載せる『しっかり学ぶ初級ラテン語』は非常に優れた教科書である。値段も安く、しっかりと勉強したい場合に手に取ってみる最初の一冊としてとてもおすすめ。抜群の記憶力を持っている人は別として、通常以下の人は少しずつ時間をかけて読み進むタイプの本である。より手っ取り早くラテン語を一望したい人にお勧めなのは新書の二冊、表題に挙げる『ラテン語の世界』と、下に載せる『はじめてのラテン語』。両方とも少し前の出版ではあるが、嬉しいことにまだ絶版になっておらず、容易に手に入る。

両者は読者対象がハッキリと異なるので注意しないといけない。表題の『ラテン語の世界』は一般教養としてラテン語がどんなものか知りたい人向けである。ラテン語がどのように発展してローマ帝国の共通語となったか、そして西ヨーロッパ(カトリック)世界の基礎語となったか、などが面白く解説される。ロマンス諸語だけでなく英語(やドイツ語も?)でも、根っこの部分ではラテン語が未だ生きて機能していることが良く分かる本である。文法も少しだけ解説されるものの、興味が無ければ無視して構わない分量だ(興味がある人には不十分な量である)。僕は本書がとても気に入っており、読むのは今回で三度目だったのだが、僕の嘆かわしい記憶力のお蔭で今回も楽しく読めた。なお、読むたびに何処かにやってしまうので購入するのも三度目となった。

『はじめてのラテン語』の方は豆教科書といった感じの本で、文法に興味がある人向けである。この小冊子の全編を通して文法事項が一通り簡単に解説される。中にはどうしてそんな活用形になるのか、『しっかり学ぶ初級ラテン語』にも載らないような語形変化の由来が説明されており、とても役に立つ。本書はキンドル版も出てはいるが、活用形を思い出すためにページを前後するような読み方になるため、紙版の方が断然おすすめ。通勤時の読書としてこれを読み始めてもう一週間ほど経つのだが、僕はまだ真ん中辺りをウロウロしている。最近の東京の電車の中で、本書を片手に活用形や例文をブツブツと呟くオッサンが立っているとすれば、それは僕である可能性が高い。

話は前後したが、ツールドフランスのお供として読んでいるのが『しっかり学ぶ初級ラテン語』。一章毎の章立てが手短で、文法事項毎に細かく纏まっており、かつ確認問題の解説が丁寧なので初心者・独習者向けに大変優れた教科書だと思う。僕自身が初心者に過ぎないので他の教科書との比較はできないのだが、数年前にほんの少しだけ読んでみたニューエクスプレスのラテン語よりはずっと良い。一歩ずつ、少しずつ覚えていく読み方に適した本である。これを書く時点でまだ4分の一程度しか進めておらず、後に追記することがあるかもしれない。

始めて2週間程度の初心者の感想として、ラテン語はとても明晰で分かりやすい言語であるという印象を受けている。他の言語、例えばスペイン語・フランス語・ドイツ語・古典ギリシャ語(ほんの少ししか齧っていないが)などと比べて不規則な要素が(とても)少ない。英語はもちろん論外である。発音もし易く、迷うことがない為、多くの日本人にとって取り付きやすい言語であると思う。多分。趣味として(英語以外に)何か外国語を勉強したいとして、特定の文化に拘りがない場合は、とりあえずラテン語をおすすめしたい。