ミラノの太陽、シチリアの月

内田洋子はズルい。他人の人生における決定的瞬間に、なぜこんなに何度も居合わせることができるのか。ジャーナリストとして培った経験が、ここに興味深い話がある、と天啓を与えるのだろうか。多分それだけで無いだろう。僕らの周囲でも面白い話やさして面白く無い話しは多分沢山起きている。通常、僕らは自身の人生に精一杯なので他の人生の事は気付けないか、気付かない振りをする。だが、彼女はそこに踏み込んで観察を鋭くする。加えて、周囲の人から面白い話を引き出す天性の何かが彼女にはある、と思う。一言で言えば、彼女のエッセイは面白い。

表題の本も彼女がイタリアで経験した十遍のエッセイで、一遍一遍がよく出来た短編小説の様でもある。その中で、個人的に白眉は『鉄道員オズワルド』。不器用な男オズワルドとその妻は、喘息持ちの娘のためにリグリア地方の風光明媚な片田舎に引越し、海に面した駅舎に住み込みで働く。娘は健康に成長し、やがて大学進学で都会に出る。休みになると娘は駅舎へと戻り、その度にオズワルトは歓喜し、別れに落胆する。もうこれ以上は書けないが、これは幸福な話である。娘を持つ世の父親には刺さるであろう。僕は独身だが、ボチボチそういう年齢なので、これは心に来た。電車で読んではいけない。

内田洋子は最近も話題になった本を出しているが、僕のお勧めは初期の三冊。表題の『ミラノの太陽、シチリアの月』と、

普通の人の生活に魅力を見出す

『ジーノの家―イタリア10景』、

魚屋三兄弟と食のエッセイ

そして『皿の中に、イタリア』。出版社が散らばっているので、書店で探すには要注意。

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