闇の守り人 (漫画版,全三巻)

最近特に気に入った漫画の一つ。原作は上橋菜穂子の守り人シリーズ第二巻目である。あまりに有名な作品なので説明は不要だろうが、故郷の地に立ち寄った主人公バルサは育て親の汚名を晴らすために地底へ赴き、過去と向き合うという、シリーズ中で最も大人なテーマで、僕はシリーズ中の最高傑作だと思っている。『影との戦い』にも通じるところがあり、河合隼雄の評論をぜひとも聞きたかった。漫画を描いた人は本職の漫画家ではない。子供向けの本のイラスト絵を描いてきた人のようだ。そのマンガというよりは絵本のような画風が原作と合っており、一見して引き込まれた。購入のきっかけも表紙絵と全体的なデザインだ(勿論原作も)。

いわゆるステレオタイプのマンガ的な絵からは少しズレるので、そういうものを求めるのであれば期待が外れるだろう。マンガ絵にはマンガ絵の良さがあり、たとえ人物の均斉が崩れていたり横顔が歪であっても、記号化された表現のおかげで気にせずに読めてしまう。それは読者の読解力(つまりそういうマンガの読み方を知っているということ)に依存するところが大きい。多くの男性が少女漫画を読みづらいと感じるのも少女漫画の読解力が身についていないからだ。こうしたマンガ(絵)の表現は、言い方が悪いかもしれないが画力の劣る漫画家のための道具だと理解しているので、画力が確かであればそれを使う必要が無い(と思う)。もし所謂マンガ的でない漫画が少ないか或いは売れないのであれば、それは恐らく対象とするであろうマンガ読者層の期待から外れるからだと思う。人は見慣れたものに好感を覚えるものだ。或いはその不利点を上回る魅力が無いか。

表題作の絵の上手さは確かであり、人物描写の均斉がしっかりと取れている(僕は素人なのでよくわからないがそう感じる)。絵から何を表現したいかも良くわかる。鉛筆で書いたような線に本の挿絵の様な味があり、ストーリー展開のバランスも含めて、あくまで原作の良さを邪魔しないように描かれているのであろうと感じた。つまりは雑味が無い。余談になるが、原作に忠実であることが良いと言っているわけではない。例えば伊藤勢の漫画は原作(夢枕獏『荒野に獣慟哭す』、田中芳樹『天竺熱風録』)を改訂、逸脱していて尚しっかりと面白い。雑味は使いようである。

作者が女性だからであろうか、バルサがちゃんと年齢相応((確か30代前半くらい)の女性と分かるように描かれている点も好感度が高い。漫画作品としてワクワクするような面白さは無いかもしれないが、ホッとする安心感がある。何度か読み返したくなる漫画であった。しかし当作品に、いわゆるマンガ的でないという不利を大きく上回るだけの魅力が原作以外の要素で有るかというと、疑わしい。何度も言うが作者の絵柄は好きだし、原作の雰囲気と合っていると思う。作者独自の面白さに欠けるだけだ。漫画で読む必要が無いように聞こえるかもしれないので、言い換えよう。適切な表現で読むのは原作と同じように面白い。(同様に、同原作者の『獣の奏者』漫画版もお勧め。)

以上の理由から、原作ファンは手に取ったであろうが、販売部数はあまり伸びていない(かもしれない)と思う。多くの書店にはもう置いてないかもしれない。第三巻の発売当日、僕は急いで買いに行ったのだが、たった2冊だけ、新刊書のコーナーから外れた書架に挟んで立てて有った。良いものなのでぜひ売れてほしい、そして同類の漫画を続けて出して欲しい、そんな漫画である。漫画は嵩張るので直ぐに売ってしまうかkindle版で購入するのが常なのだが、これはもう暫く手元に置いておきたいと思ている。

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